札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年6月16日土曜日

脳卒中医療の現状と課題

263回日本内科学会北海道地方会で特別講演「脳卒中医療の現状と課題」を拝聴した。講師は北海道大学脳神経外科の宝金清博教授である。
 ■慢性虚血に対する血行再建術

STA-MCAのバイパス;1530分で終わる負担の少ない手術である。手術による脳卒中再発率は2.4%、内科的治療は16%となっている。(この研究は古くて、現在は内科治療の成績が向上しているため、単純に比較できない)。

このバイパス術は日本で発展し、手術レベルは高い。MRIで異常がないが、TIAを起こす例に適応がある。過去のRCTNegative studyとなり、欧米ではやらなくなっている。日本では、血行動態を考慮して手術するかどうかを判断しており、より精密な研究となっている。欠点として術後に過灌流が問題となる[3.7]。その結果、脳出血を起こすことがある。造影所見だけで判断すると15%に起こる。

・内頸動脈血栓内膜剥離術[狭窄は70%以上が適応]FDG-PETがプラーク診断に有効。

シャントを用いて行うと安心。

 ■血管内外科治療

・症例は増えている。年間2万件(外科の半分)

破裂動脈瘤、未破裂動脈瘤、閉塞性脳虚血障害の3つがある。

CAS(carotid artery stent)と呼ぶ。塞栓予防が大切である。Sapphire研究というものがある。それによると対照群よりCASの方が、有意に成績がよかった。

 動脈瘤手術は年間3万件。未破裂動脈瘤手術は1万件。ただし長期の結果が分かっていない。コイルによる動脈瘤治療が開発された。血栓を起こすことがある。一度施行されると他の方法による再治療が難しい。始めにこの方法が採用されるため、手術に難しい症例が回される。その結果、簡単な症例で若い医師が経験できないというジレンマがある。脳ドックを受けると70%の人に未破裂動脈瘤が発見される!スタチンが動脈瘤を縮小させるという報告があり、今後研究プロジェクトが行われる予定である。

 ■地域医療とtPA

J-ACTのいう日本発の研究が有名である。この治療は3時間以内に行う必要があるが、この治療が必要な患者の3%にしか実施されていない。日本では発症から救急車を呼ぶまでに4時間。病院到着までに5時間かかっている。救急車は7分で現場に到着している。到着後診断に1時間。このような現状から、発症後4.5時間までは使用可能にしようという動きが出て来ている。早期に治療を開始するためには、住民への啓発活動が重要である。

 ■脳虚血治療のinnovationの芽

ラットの実験では3時間血行が止まると脳機能は不可逆になる。中枢神経は再生しないと言われている。治療はリハビリが主体であった。今、幹細胞治療が注目を集めている。幹細胞が組織細胞に分化する(神経幹細胞、ES細胞、iPS細胞等を用いる)。

北大では骨髄間葉系幹細胞を用いて、梗塞周辺に脳内移植する。札幌医大は静脈内注入をしている。神経症状は明らかに改善する。理論はいろいろあり、確定されていない。

 ■医療と社会

医療における正しさが今問われている。医療資源の公正な分配を、今後迎える肩車社会ではどうするか。「医学的正当性」対「社会的公正」。自然の流れに反する医療を許してよいのか。共同体論を訴える哲学者もいる。極端な延命今後、問い直されるだろう。

 最新の医療の話から、医療の在り方論まで、幅広い話で聴衆を引きつける宝金先生らしい講演内容であった。(山本和利)