札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年6月14日木曜日

パンドラの種


気候変動・電力問題にどのように対応すべきなのか、様々な声が聴かれる。そんな議論に参考になる本に出会った。『パンドラの種』(スペンサー・ウェルズ著、化学同人、2012年)である。

著者は、世界中のDNAサンプルを集めて分析し、祖先の移住の過程を明らかにしようとする研究者である。

ヒトは20万年前ころに誕生。8万年前にヒトは急激な憂き目に遭う(絶滅に瀕した)。その後、人口増加となる。1万年前に人口増加のスピードが加速。農耕を編み出した。

狩猟採取生活から定住農耕生活への移行がわれわれのDNAに多大な影響を与えた。新石器時代に虫歯が増加した。食事に含まれる炭水化物の割合が急激に増えたから。遺遺伝子が少しずつ変化し、環境に適合するモノが生き残る。古い環境で有益であった遺伝子が、新しい環境では有害になる。(効率よく栄養をため込む遺伝子が糖尿病を引き起こす)。

現代医療のあり方についても問題を投げかけている。特殊な貧血で生命の危機にある男児が生まれた。その子を救う方法は、現時点では同じ遺伝子をもつ者からの輸血しかない。そのため、夫婦は体外受精で子どもを作り、骨髄輸血により重病の長男を病気から救い出すことを決意する。様々な世論の渦巻く中、その治療が選択される。体外受精は1977年にヒトに応用された。現在この方法で全世界で100万人以上が生まれているそうだ。

ひとたび開けたパンドラの箱から飛び出した災厄はもはや戻しようがない。希望はないのか。著者の答えは明確である。「足を知る。」である。人類は多くを望まないこと。それによって気候変動問題という難題と折り合いが付けられる、結んでいる。(山本和利)