札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月8日月曜日

書物合戦

『書物合戦』(樋口覚著、集英社、2005年)をたまたま図書館で見つけたので読んでみた。

18世紀に『ガリヴァー旅行記』を書いたジョナサン・スウィストが古今東西の名作を登場させて論争させた『書物合戦』という本があるそうだ。ロンドン留学中の夏目漱石や正岡子規のことに触れながら、その反骨精神を紹介している。『ガリヴァー旅行記』が当時の世間を風刺したものであるとは知っていたが、『書物合戦』はその上をゆくようだ。

続いて扱っているのは「電波戦争」である。『1984年』、『カタロニア賛歌』を書いたジョージ・オーウェルが第二次大戦中、BBCを通じてスウィストに会見を申し込んで成功したインタービュ記事を紹介している(200年の時間差があるので当然フィクションであるが)。その中でスウィストの言葉を借りて世間を批判した。オーウェルはこれをラジオでも放送した。ラジオを利用したのはオーウェルであり、ヒットラー(ラジオを通じた演説)であったという。テレビはラジオにすべてにおいて優っている訳ではない。ラジオには俗的な正体を曝露することなく演説を通じて幻想を醸し出すことができるからである。オーウェルはドイツのベルリンから流す放送に、ラジオBBCで戦況ニュース解説を流して対抗した。

別の章ではオーウェルの変遷が綴られている。オーウェルと似たような人生を送った人物として著者は、沖縄の警察官をやめて写真家に転身した比嘉康雄を挙げている。ページをめくってゆくと話はホイットマンとヘンリー・ミラーを登場させ、『インドへの道』を書いたE・M・フォースターについて論じている。

オーウェルの時代はラジオの時代であった。時が流れ、「鉄道」から「ラジオ」、「テレビ」、「インターネット」と情報を取得する手段は移り変わってゆく。表層的で断片的な情報はインターネットで簡単に取得できるかもしれないが、じっくりと深読みを味わうには書物がよいと再認識した次第である。「やはり書物は面白い。」(山本和利)