札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月4日木曜日

人生という作品

『人生という作品』(三浦雅士著、NTT出版、2010年)を読んでみた。

一人の人間の生き様をまとめあげた論文集である。はじめに文字学者・白川静を取り上げている。彼はこれまでの文字の成り立ちに対する考え方を根本的に変えた人である。「口」はもと耳口の口ではなく、祝告の器の形にほかならないというのである。「道」「眞」の解釈にしても、古代人の生活様式をもとに呪禁で解釈している。これによって文字を一貫した考えで解釈ができるようになった。優れた学説はすべてその起源に詩的直観を持つ(三浦雅士)。しかしながら、学会の重鎮の反撃が凄まじい。白川静の学説は孤立し、拡散しないで排他的に凝縮する(三浦雅士)。凡庸の専門家集団は簡単には受け入れてはくれない。医療以外の分野でも同じことなのだ。本書を通して白川静の学者としての矜持をみた。

(なぜ、呪禁で成り立っていた文字の原義が忘却されたのかについての考察も面白い。)

章が変わると、「歴史」ではマルクス、レヴィ=ストロースが取り上げられている。「小説」では安部公房、太宰治が俎上に上がっている。三浦の得意分野であるバレエの話にはついてゆけず読み飛ばした。

著者はこれだけの内容を書くためにものすごい下調べをしたことが推察される。膨大な基礎知識と取材力に圧倒された。学問で生きるためには生半可では駄目であることを思い知らせてくれる書物でもある。
(山本和利)