札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月29日月曜日

ランドラッシュ

『ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦』(NHK食糧危機取材班著、新潮社、2010年)を読んでみた。本書は、NHK食糧危機取材班がテレビ番組取材のために使ったものを本にしたものである。

長年放置されたウクライナ、ロシアの農地が韓国、日本、ニージーランド等に買い取られてゆく。日本商社が慎重を期して検討している間に世界最大の造船会社である韓国企業が1万ヘクタールの農地を「かっさらう」形で手に入れる。韓国の穀物自給率は27%。ソウル近郊の農地は工業地になってしまっている。農業人口は年々減り続け、高齢化が急速に進んでいる。まるで日本とそっくりである。

アフリカはランドラッシュの最前線だ。エチオピアの話。政府職員が来て農民に、水道・電気の整備や職場提供を条件に土地を手放すように促す。インド企業に渡った後、条件は反故にされる。外国企業が大規模に食糧生産をしているのに、エチオピアは慢性的な食糧不足に苦しんでいる。農民や国民が苦しんでいる一方で、ランドラッシュは受け入れ国政府にとっては外国からのありがたい投資にほかならない。

ランドラッシュを引き起こした病巣は、国際機関による「米国びいき」が原因であるという意見がある。途上国が「輸入依存体質」から脱却することは、米国・カナダ・オーストラリアが「余剰農産物のはけ口」を失うことであるからだ。「飢餓や栄養不良の原因は、『生産量の不足』ではなく『貧困と不平等』だ」「大規模な農業投資は、アンバランスな競争をもたらし、農村社会を崩壊させる恐れがある。」「ランドラッシュ」は新しい植民地主義だという意見もある。

ランドラッシュは地殻変動の表層に現れた現象ではないか。「米国びいき」が崩壊する前触れであると。

医療について考えてみよう。地域医療の崩壊は何かの前触れなのか?「何の崩壊」なのか?「専門診療偏重?」今を乗り切れば光が見える!総合医に、地域に、国民に。私はそう考えたい。(山本和利)