札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月9日火曜日

地域医療の課題と展望

11月9日、西吾妻(あがつま)福祉病院 & 六合(くに)温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「「地域医療の課題と展望」である。

これまでの活動を披露された。自治医大卒。六合へき地診療所長。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。コメディカルが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。
豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。

「山と離島のへき地医療って違うか」と学生に質問。
山村、半島、広大な地域、大きな島と周辺の離島、本土から距離のある離島、高齢化住宅タウン、山谷地区、等、地域によって様々である。台風のときの対応が難しい。ヘリコプター搬送(有視界飛行である:夜間飛ばない)。
     
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。
 
医療モデルは、目的を疾病の治癒、救命におき、目標を健康に、ターゲットは疾患(生理的正常状態の維持)であり、病院(施設)で行われる。チームは 医療従事者で構成され命令・指示がなされるオーダー型である。対象のとらえ方は、医学モデル (病因-病理-発現)で 急性期(短期間・cure期)が適応となる。
Evidence-Based Medicineの手法が用いられる。

一方、生活(QOL)モデルの目的は、生活の質(QOL)の向上であり、目標は自立(自己決定に基づき、自己資源を強化し、社会的生活を送る)を目指す。ターゲットは障害(日常生活上の支障・困りごと)(日常生活動作能力[ADL]の維持)であり、社会(地域・家庭・生活施設)で行われる。チームは異職種(保健、医療、福祉、介護等)で構成され、協力・協働するカンファレンス型である。対象のとらえ方は、 障害モデル(ICF・国際生活機能分類)で、急性期を過ぎたcare期に適用される。ケアマネジメントの手法が用いられる。
    
授業では時間がなく言及できなかったが、配布資料から重要な部分を提示する。
   現状は「地域医療不全」と認識すべきである。
     治療の前に病態を明らかにすること。
     その為には詳細な病状の把握。
       都市への医師偏在
       国公立病院の経営不振と人材確保困難
       各科専門医崇拝主義
       勤務医からの脱落(9時―17時勤務)
       医療訴訟問題
       女性医師の増加
       国民の意識の変容(専門医療志向)
       関係省庁の縦割り行政の影響     等など
     大ナタをふるう勇気こそが、唯一の治療方法?…社会保障制度のパラダイムの再構築…

一診療所から出発して、地域に出向く病院と急性期対応病院を建設した行動力に多くの学生が感銘を受けていた。後半の時間が足らず、現在の医療状況の分析にまで話が及ばなかった点勿体なかった。(山本和利)