札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年10月26日火曜日

離島、米国そして札幌

10月26日、手稲家庭医療クリニックの小嶋一先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医療の実践- 離島、米国そして札幌-」である。

まず、自己紹介をされた。東京生まれ。居酒屋で酔っ払いに囲まれて育った。九州大学卒。沖縄中部病院で研修。離島医療に従事。米国で家庭医の研修を受ける。2008年手稲渓仁会家庭医療センター(愛称「かりんぱ」)で活動。19床の有床クリニック(ホスピス・ケア)で、年間100名の看とりをしている。初期研修医4名、後期研修医6名、内科から研修医4名。内科、小児科、産婦人科を標榜。在宅医療もしている。地域医療への貢献(幌加内へ研修医を派遣)も目指す。

これまでの道のりをさらに具体的に話された。初期研修は野戦病院のようなところで沢山の患者を診た。担当患者350名。離島に行くことが決まっていたので積極的に研修をした。週に140時間働いたことがある(寝る、食う、仕事しかない)。卒後3年目の離島経験。伊平屋島、人口1500人。医師一人、看護婦一人。毎日当直。風邪から心肺停止、外傷、精神錯乱まで何でもありであった。慢性疾患への対応がわからなくてもう少し勉強したくなった。

米国Family medicine residency:2003年、先輩が道筋をつけてくれて米国へ行くことになった。5年間研修した。3年間の研修で無理なく開業ができる段階的なプログラム。開業を前提とした教育。継続外来専門施設で研修。外来診察数:150人(1年目)+1500人(2-3年目)。Family Health Center(FHC)は、指導医と研修医がグループ診療を行う。外来にロールモデルがゾロゾロいる。経営なども実地で学べる。

FHCでよく遭遇する問題:小児検診、風邪、健診、皮膚科、腰痛、腹痛、(保険の関係で糖尿病、高血圧が意外と少ない)。術前検診、避妊相談、うつ病、禁煙指導、麻薬中毒、等。FHCで家庭医の幅を思い知った。米国の研修で納得したのは、ロールモデルがいる、入院と外来のバランスがとれている、一人立ちするための移行システムである、等々。

家庭医・家庭医療とは
「患者が望むこと」はいつもシンプルである。すなわち原因の追及、体調を治してほしい、等。風邪の患者さんを風邪の診療だけで終わらせない。エビデンスを大切にする。これまでの縦割り医療では実現できない視点を持つ。予防、未病、健康増進も。複雑な要因を解きほぐし解決する。アクセスが容易である。人生の始まりから終わりまで関わる。年齢、性別、病気の種類を問わない。入り口としての役割。患者の味方になって共に悩みを分かち合う。複雑な問題を整理して導く。医療のプロフェッショナルである。

ロールモデルやメンター(自分を理解、先を進んでいる、成長を助ける、尊敬に値する)に出会うことが大切。

現場主義:スキーはスキー場で習え。へき地医療を知らずして家庭医とは名乗って欲しくない。

家庭医の5つの武器
・ Community Medicine
・ Community Outreach
・ Behavioral Science
・ Quality Improvement
・ Practice Management
時間の関係で詳細は別の機会にということであった。

日本の家庭医には未来がある。その理由として4つ挙げられる(僻地医療の崩壊、予防医療のエビデンスに基づいた実践、産科・小児・救急医療の人手不足、恵まれた保険制度)。

最後に学生にエールを3つ送られた。「武器を磨け」「良きパートナーを」「二歩先を読み、一歩先を照らし、今を精一杯」

学生たちは家庭医療の具体的な内容や離島医療、米国の研修医の実態について知ることができ、感銘した者が多かった。講義が終わってからも追っかけで二名が昼食に参入してくるほどであった。小嶋先生、ありがとうございました。(山本和利)