札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月29日土曜日

家庭医の生涯教育

10月28日、藤沼康樹先生に学生講義終了後、スタッフ向けの講義をしていただいた。その内容はリアルタイムでPCLSのTV会議でも中継された。講義のタイトルは「家庭医の生涯教育」である。

生涯教育とは何か。どんな医師もマスターを目指す。しかしながら卒後の初期教育終了後における生涯教育の仕方を医師に教えていない。医師のパフォーマンスを規定するものは従来の「生涯教育」であるが、中年になると若いときに溜めた貯金を使い果たしてしまう。特にジェネラリストは藪医者化しやすい。従来の医学教育ストラテジーは、たくさんの経験をすることを重んじる。しかしながらそのようなやり方は若さに任せた研修中しか通用しない。年を取ると対象を狭くしないと一定のレベルが維持できない。そのため医師は益々狭い領域に専門分化してゆく。家庭医は広い領域に対応しなければならないので、この方法では生涯教育ができない。そこで別の方法が必要となる。

医師のパフォーマンスを規定するものは何か。「コンピテンシー」、「システム」、「個人の資質」の3つが一体となっていないといけない。

家庭医とは何か。五十嵐正紘氏がいうところの「長くそこにいて、すべてに関わる」ことであり、「特定の個人、家族、地域に継続的に関わる医師」であり、「高齢社会への対応」が求められ、「取り扱う頻度が急上昇している複雑な問題を取り扱う」。

家庭医の生涯学習は、「多種多様」であり、「網羅型」であり、「弱点補強型」であるべきである。家庭医が扱う問題は次の4つに分類できる。

・Simpleな問題
「症状・所見を重視」、「common diseaseのガイドラインのfollow」、「EBM」である。これには講義で対応できる。アリゴリスムがある。家庭医が知っておくべきものとして、日本医師会生涯教育プログラムに84項目が挙げられており、この内容について家庭医は15分間何も見なくても説明できることが必要である。

・Complicatedな問題
(simpleな問題×n)である。これらを講義することは難しい。解答が無限にあるからである。対応のコツは経験豊富な医師の中に存在している。「病院の症例カンファランスへの参加」、「エキスパートへの相談」、「ソーシャル・ネットワークでの相談」等で対応するとよい。外部の施設を利用する方法もある。

・Complexな問題
(simpleな問題×n)に留まらず、問題がさらに複雑で、個別性が非常に強い。文献を検索すると世界中で2つの大学だけがこの問題を研究しているに過ぎないことがわかった。これに対応するには「心が整えられるか」が重要である。対応する医師は、自分が巻き込まれないように意識しなければならない。その際にGreg Epsteinが提唱するMindful practitioner(禅の概念)が参考になる。Mindful practitionerは事故を起こしにくいという。このような人は次の4要素を併せ持つ。1)注意深い観察者である、2)分析的好奇心(わからないことを尊ぶ、若い人に頭を下げられる)がある、3)ビギナー精神(そういう考えもありますよねという気持ち)を持つ、4)存在感(たち振る舞いに信頼感がある、安心できる)がある。

・Chaoticな問題
この問題は将来どのような結末を迎えるか予測できない。終わってみてはじめて結論がわかることがほとんどである。これに教育法があるのか?「複雑さを表現する語彙の獲得」が重要で、看護、心理学、哲学等から借用する必要がある。「チーム・マネージメント」が必要である。一人ではできないという思いに至り、努力しても医療者を挫く事例が多いからである。必ずしも解決する必要はないのだ。Stabilizingを目標とするとよい。「地域の様々な医療保健福祉リソースの開拓」が重要で、いろいろな人を知っていると役立つ。困ったら地域に相談してみるとよい。「患者中心のコミュニケーション力を磨く」べきである。

これからの家庭医の生涯学習に必要なことは
・メンタリング
・Balint group session
・Practice based research network
・診療の質の改善
・チームワーク&リーダーシップ
・イノベーション
だそうだ。

絶えず新しい課題に挑戦している藤沼先生である。講義、ありがとうございました。(山本和利)