札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月2日日曜日

A3

『A3』(森達也著、集英社、2010年)を読んでみた。

著者は映画監督で作家。1998年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。

Aとは何のイニシャルか。AUM(オウム真理教)、Agony(煩悶)、Antithese(反命題)、Alternative(代案)等が考えられるが、今回は内容を凝縮して麻原彰晃のAである。

まず、裁判の傍聴の記録から始まる。英語や意味不明の用語を繰り返す麻原と裁判長の漫才のような掛け合い。麻原は、第三次世界大戦が終わり、日本が消滅している前提で話をしている。精神が崩れかけている。尿失禁、便失禁をし、不規則な言動をし、痙攣を起こし、娘の顔を識別できないようだ。しかしながら麻原の精神鑑定が出ない。そのため治療されないまま放置されているらしい。その後、麻原の現在の挙動は精神障害を装う演技であるとする見解が、裁判所によって正式に認定された。はじめに死刑ありきのようだ。最高裁は、いくつかの裁判(小林薫、永山則夫被告)から3人以上殺したら死刑との量刑基準を示した。

著者は、麻原の過去を探ろうとするが、関係者が少なく、また居ても取材応じる者は少なく遅々として進まない。また、麻原の三女が受かった大学に入学を拒否された。その大学の学長は個人としての思想信条を押さえて、組織の論理を優先させたということのようだ(入学させると次年度の入学者が激減する、等)。

著者は麻原の起こしたことに対する責任能力を云々しているのではなく、訴訟能力があるかどうかを問うている。しかしながら、そこを誤解されるようだ。

著者はオウム真理教の一連の行動は、麻原のレセプターに取り巻き幹部のレセプターが反応しあって、最悪のシナリオで進んでいったためである、と捉えている。組織の崩壊がどのようにして起こるのかについて、大変参考になる。歯車の狂った指導者に取り巻きが、指導の期待に応えようと嘘で塗り固め、取り巻きからの情報だけを信じて益々深みにはまって崩壊に突き進む。

本書はオウム真理教裁判のいい加減さを告発しているばかりでなく、優れた組織分析論でもある。(山本和利)