札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月11日火曜日

人口論

『人口論』(マルサス著、光文社、2011年)を読んでみた。

マルサスはプロテスタントの牧師である。本書は1798年に書かれている。このころの世界人口は約2億人と推定される。当時の傲慢な進歩思想に対する警告の書として発刊されたという。理性信望主義者ウイリアム・ゴドウィンに喧嘩を売った本でもある。ゴドウィンは人間の本質は改善でき、本性によって生まれた社会制度は貧困なき世界を作るとも確信している。しかしながら、マルサスは2つの前提をもって反論する。そしてそれは自然の法則であると主張する。1)食料は人間の生存にとって不可欠である。2)男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する、と。事例として、未開民族の人口の少なさは、食料の少なさに由来すること、生活苦が人口を抑制し、結果的に食糧の産出と均衡させるものであることを取り上げる。この前提を信じる者をマルサス主義者というそうだ。

人口は何も抑制しなければ等比級数的に増加する。一方、人間の生活物資の増え方は等差級数的である(これには根拠が薄いとマルクスが批判しているそうだ)。生存の困難が人口の増加を絶えず強力に抑制する。食糧が増加すれば、人口は必ず増加する。人口を食糧と同じレベルに保たせるのは、貧困と悪徳である、と。このように主張してゴドウィンを否定する。自然・世の中はそんな甘くないと。

人口増加に対して、事前予防的な抑制と積極的な抑制とがある。さらに、女性に対する不道徳な習慣、大きな都市、不健康な製造業、奢侈、ペストのような伝染病、戦争がある。人口は、貧困および悪徳という2つの主要な抑制が取り除かれる程度にぴったり比例して増加する。

マルサスは、貧民を飢えさせ、子供を作らせないようにするのがよいとしている。このようにマルサスは、貧困の存在を正当化する。マルサスの原理は革命を否定する反革命である。

現在もマルサス主義者はなくならないようだ。人間には、上下関係、優劣をつけるという性(さが)があるからだろうか。昨今、無能な者には生きる権利がないという風潮が強く、貧困者、派遣労働者を切り捨ている論理が横行している。それにはプルードンが既に1848年に論文で反論しているという。まだまだ勉強して理論武装しなければならないと思いを新たにした。(山本和利)