札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月12日水曜日

北海道の地域医療

10月11日、医学部4年生の『地域医療』の単元の中の
『北海道の地域医療』というテーマで講義をした。

冒頭の自己紹介で、自分は名古屋出身で名古屋市立大学卒だが、
北海道の地域医療がやりたくて北海道に移住し、
その後10年「総合医」として北海道の地域医療に従事し、
この度『医学教育』をやりたくて札幌医科大学に赴任したことを紹介した。

それだけに、『今日のこの講義のために自分はここにいるのだ』と
この講義に臨む並々ならぬ意気込みを学生諸君に示してから本題に入った。


北海道の人口10万人対医師数は全国平均とほぼ同じで、
最近崩壊が叫ばれている産科・小児科についても、
医師数自体は減っていないことを示した。

しかし、東北6県と新潟県をあわせてもまだ広い北海道では
2次医療圏が22もありその内、人口10万人対医師数が
全国平均を上回っているのは札幌と旭川だけであることを示し、、
根室や宗谷などは札幌圏の1/2にも満たない
医師数でしかないことを示した。

また、地方では病院までの救急搬送時間が非常に長く、
域外搬送も多いというデータを示し、そうした医療格差が、
札幌と地方とでの疾病構造の変化ももたらしていることを示した。
具体的には虚血性心疾患の年齢調整死亡比が
札幌と北網地方では15%ほども違うのだ。

ここで、どういった条件であれば、地方に勤務してもよいかを
学生に問いかけた。

 ・(勤務)期限が限られていること。 
 ・学会参加などの学ぶ機会が保障されていること
 ・一人ではなく複数での赴任であること
 ・指導医の体制が整っていること
 ・札幌に搬送する手だてがそろっていること。
 ・医療機器や診断機器がある程度そろっていること

など、医療側に求める意見から、

 ・町自体が活気があること。
 ・教育の環境が整っていること。
 ・交通網が整備されていること(空港や高速道路)
 ・札幌へ2時間程度で来られること
 ・地域住民があまり干渉してこないこと
 ・給与が他よりも高いこと
 ・ショッピングセンターがあること

など、行政や地域コミュニティーに求める意見も多数あった。


ここで、「地域に定着しやすい医師」のデータを紹介した。
1)地方出身者 2.9倍
2)総合医 3.1倍
3)早期に地方勤務を経験している 4.7 倍
4)へき地医師養成プログラムを受けた 4.7倍

医学部では「地域枠」や「特別推薦枠」などの入試制度で
1)や4)に対する対策はすでにとっている。

問題は2)と3)をどうするかだろう。
医学部を卒業した後、「総合医」を目指す研修医と、
研修初期に地方勤務に行くような研修医を
どうやったら輩出できるのだろうか?


ここで、札幌医科大学の建学の精神を示した。

・建学の精神
   医学・医療の攻究と「地域医療」への貢献

・理念
   「道民の皆様」に対する
   医療サービスの向上に邁進します

・中期目標(基本目標)
   創造性に富み人間性豊かな医療人を育成し、
   「本道の地域医療に貢献する」

この中で3回も北海道の地域医療に関係する言葉が使われている。

こういう理念を掲げた大学を「志願して入学した」
ということの意味を考えてもらった。
つまり、札幌医科大学で学ぶ以上、
卒業後は地域医療に貢献する「ある程度の義務を負う」ということだ。

しかし、日本国憲法には職業選択の自由の項目があり
「何人も、公共の福祉に反しない限り、
 居住、移転及び職業選択の自由を有する」

ここでいう、「公共の福祉」とは何か?
例えば、警察官・消防士・小中学校の先生などは、
どんな僻地でも必ず勤務することが義務付けられている。
これが「公共の福祉」だろう。

では、医療は「公共の福祉」に含まれるだろうかと問いかけた。


最後に
地域で求められる医師像として、「病院総合医」を紹介した。

1)自分の専門以外は入院も外来も見ない超専門医
2)一般外来程度の総合的なことはみられる専門医
3)一般入院程度の専門的なことはみられる総合医
4)どんな病気・年代の人でもとりあえず外来で見る家庭医

以上4つのタイプをわかりやすい図を用いて紹介した。
北海道の地域で求められているのは
地域の基幹病院で、よくある病気の入院診療を
域外搬送せずに完結することのできる病院総合医なのである。

こうした総合医が増えれば、
少人数でもある程度の入院診療は可能であろう。
地域医療再生の切り札となるであろう。

最後に
学生諸君に「札幌医科大学で学ぶ学生として」
地域医療のために何ができるか?を問うたところ、

・病院総合医を目指したいと思った。
・期限付きであれば地方勤務も自分のために必要だ
・もっと地方の医療の現状を知りたい。
・学生実習で地方病院を見てみたい。

などの前向きな意見がかなりあった。
わずか1時間の講義ではあったが、
自分の思いが多少なりとも伝わったかなと思った。
そう思いたい。

                 (助教 松浦武志)