札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月24日月曜日

「カネ」の話

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子著、理論社、2008年)を読んでみた。

著者は『毎日母さん』等を描く有名な漫画家。子供向けに書かれた理論社の「よりみちパン!セ」シリーズの一冊である。本シリーズは「家でも学校でも学べない」ことを本にしているのが売りという。

こどものころの貧乏な生活の描写で始まる。貧富の差がないから、貧乏人がいない。お金に余裕がないと、日常のささいなことが全部衝突のネタになる。「暴力」と「貧困」が同居し、居場所を失う。「貧しさ」は連鎖し、「さびしさ」も連鎖する。賭博にのめり込んだ父親の自殺が語られる。

高校を退学。大検に合格し、美大を目指して予備校へ。そこでは最下位であったという。最下位の人間には最下位の戦い方がある!自分のだめな所とよい所を冷静に判断できるようになった。出版社に売り込み。「プライドで飯は食えない。人が見つけてくれた自分のよさを信じて、その波に乗ってみたらよい。マイナスを味方につけなさい。」と子ども達にメッセージを伝える。

お金ができてからの賭博体験を披露している。賭博は、欲をかいている時点でもう負けだ。「借金」は、人と人との大切な関係を壊してしまう。「カネ」ってつまり、「人間関係」のことでもある、と。

「貧乏人」の子は貧乏人になる。泥棒の子は泥棒になる。非情な現実を訴える。その打開策の一つとして、ムハムド・ユヌス氏が導入したグラミン銀行(弱者のための銀行、女性に限定)を紹介している。竹細工で生計を立てている女の人たちに、自分のお金から材料費として27ドルを無担保・無利子で貸してあげたことに端を発している。

過酷な子供時代を過ごした著者の赤裸々な事実を綴った作品である。類い希な行動力で不幸を乗り越えた事例と言えよう。問題は誰もがこのような行動力をもっているわけではないということであろう。人は生まれた環境を乗り越えることができるのか? 難しい課題である。(山本和利)