札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月13日木曜日

ハイパーインフレの悪夢

『ハイパーインフレの悪夢 ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する』(アダム・ファーガソン著、新潮社、2011年)を読んでみた。

著者は、歴史学を修めたジャーナリスト。欧州統合に深く関わり、英国外務省の特別顧問、欧州議会の議員も務めた。本書は1975年に出版。2008年のリーマンショック後、古本屋で古書が21万円の値がついたそうだ。このように俄然注目を浴びてきたため復刊されたという。

第一次世界大戦後のドイツはハイパーインフレを体験した。敗戦で賠償金を払わなければならなくなったドイツは大量の国債発行を財政の切り札とした。マルクが溢れ、マルク安が進む。輸出品の値段が下がり、ドイツ経済は活性化する。企業倒産は減少し、失業率が下がる。ところがいいことばかりではない。そのうちに商品の値段が上がり始める。預金は愚かな行為となる。生活が苦しくなった労働者が賃上げを要求する。マルク相場の下落を見て外国人が商品を買いあさる。ついに紙幣の価値が1兆分の1になる。人々はインフレの犯人を「ユダヤ人」に求めた。信頼を失った紙幣は、ただの紙切れになる。このように池上彰氏が本書の冒頭で解説している。

本書では、インフレが進行した様子を克明に記述している。朝パン屋で、20マルクでパンを2本買って、昼にはそれが25マルクになっている。インフレの原因がユダヤ人のせいにされる。あらゆるものに「反対」を唱えるヒトラーが期待の星として輝きを増す。物価や賃金に関心をしめす中産階級がナチスになびく(インフレがなければ、ヒトラーは何も達成しなかった)。紙幣の乱発が通貨下落の原因とは誰も考えていない。ドイツ全体が経済的のみならず、道徳的にも崩壊してゆくプロセスが描かれている。

新たにレンテンマルクを導入し、1兆マルクを1レンテンマルクとした。国際投機家の大移動が起こり、徐々に通貨が安定した。商業が復活し、都市の食糧事情がよくなり、多くの社会購買力が上がり、工場は再開され、失業は急速に減り、人々の気力を蘇らせた。

紙幣の価値が崩壊してゆくプロセスは素人の私にもよく理解できるのだが、肝心の再生のプロセスがよくわからない。新紙幣を作るだけでそんなにうまくゆくとは思えないのだが・・・。東日本大震災の復興に膨大な資金がつぎ込まれることになろうが、本書は安易な国債発行大増刷ではインフレの萌芽を招きかねないということを警告している。(山本和利)