札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月14日金曜日

インサイド・ジョッブ

『インサイド・ジョッブ』(チャールズ・ファーガソン監督:米国 2010年)というDVDを観た。

米国の金融界の腐敗を一般の人にも分かるように映像化している。監督は補足の映像で、金融界のトップ75人を監獄行きにすれば、金融危機は起こりにくくなると提案している。

映画はアイスランドの光景から始まる。2000年、規制緩和により外国企業が押し寄せ、地熱を利用した施設ができたが、その結果自然が破壊される。3大銀行を民営化した結果、バブルが出現。そのとき3銀行に対して米国の格付けは最高ランクをつけていた。2008年9月15日、リーマンブラザースが倒産。全世界の5000万人が貧困以下になった。バブル崩壊。監督官は権限があるのに何もしなかったことが明かされる。

この後、米国での経緯が説明される。
1980年に規制が外れ、銀行が投資に走った。その規制緩和にグリーンスパーンが暗躍している。レーガン大統領もその政策を支持。クリントン政権も同様。その結果、違法な合併を認めることになった。そして、金融界が巨大化し、ロビー活動が活発になる。エンロンの不正にも関与している。

90年代に入ると金融工学が導入され、デリバティブを生む。その結果、何でも投資対象になった。彼らはデリバティブを規制することに反対し、推進する法案が成立する。住宅ローンのデリバティブを創ったことで、住宅ローンの返還金は世界の投資家に回るようになった。住宅ローンは2000年から2003年に4倍になった。投資銀行は利潤の高いサブプライムローンを好んだ。1,000億ドル単位の金が金融界に流れた。2007年、住宅価格が2倍になった。顧客は、平均で99.3%を借金で賄っていた(大部分の者が貯金がないのに借金で家を買っている)。

世界各国の年金基金が買った理由は、格付け会社がAAAをつけたからであったが、証券は紙くずとなった。格付け会社は弁護士を雇って、「これは単に意見に過ぎない」と反論。破綻直前の銀行の評価がA2からAAAと高い評価を付けていたのに倒産したのである。政府は税金7000億ドルで金融界を救済。世界中の企業が規模を縮小。米国での差し押さえ住宅は600万件。ネズミ講詐欺に近い。このタイミングで国は意図的に監督官を146人首にしている。保険会社のAIGは多重の保険を引き受けていた。職員が契約した目先の利益にボーナスを払うが、会社が倒産するかも知れないリスクへの罰則がない。

一方、貧しい者が一番被害を受ける結果となった。米国庶民の中にはテント生活を強いられる者もいる。仕事がなくローンが払えない。公立大学の授業料は年間1万ドル。そのため、若者は大学に行けない。このような状況に誰も責任を負わない。

ある銀行はジェット機6機、ヘリコプター1機を所有。その役員はコカイン、ストリップ、売春に走る(女性に1時間1000ドルを会社のお金で清算)。役員一人で5ー10億ドルの役員報酬や退職金をもらっている。リーマン・ショック後、銀行はより巨大化したという。

アカデミック社会の腐敗も深刻である。金融界は50億ドルをロビースト活動に注入。多くの大学教授が規制緩和を進めた。彼らが破綻をもたらした政策を作り大金を稼いでいたのだ。有名大学の学長が退職後、銀行や証券会社の顧問になって30万ドル以上の報酬をもらっている。報酬を受け取って金融界に有利な論文を書いても、その事実が論文に記載されない。ハーバード大学とコロンビア大学はコメントを出すことを拒否している(学長が率先して腐敗に加わっているのだから当然か)。

米国は上位1%だけが勝ち組となった。オバマ大統領の金融改革は腰砕けとなった。ブッシュと同じ政策を継続しているのだ。金融危機を起こして責任をとらない男を財務長官にしている。重要な職の顧問になったのは金融危機を作った者たちで、全く代わり映えがしない。起訴や逮捕は一件もない。日本における小沢一郎など比ではない。粉飾決済で訴えられた会社もない。「我々の仕事は複雑で君らには理解できない」と嘯いている。


米国は病んでいる。腐った金融界が政治を支配している。誰も責任をとらないひどい社会である。この映画を観た者は全員がそう思うはずである。米国や英国の若者がデモへ駆り立てられる気持ちが実によく理解できる。今、必見の映画である。(山本和利)