札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年10月18日火曜日

総合医と臓器別専門医

10月18日、勤医協中央病院総合診療・家庭医療・医学教育センターの臺野巧先生の講義を拝聴した。昨年に続いて2度目。はじめに講義のポイントは「Think globally, Act locally.」で始まった。その後、自己紹介をされ、脳外科医から総合医への転身された経緯を話された。スケート部で東医体三連覇、学園祭実行委員長、POPS研究会で活躍。学生会を創設し、寮生活の改善活動をしたとのこと。

脳外科時代は、臨時手術、当直業務、緊急呼び出しが主な業務。充実していたが、年をとると大変と感じていた。同窓会にゆくと他の専門医となった医師も同じ悩みを持っていることがわかった。専門以外の知識がないため全科当直が非常にストレスだった。CT,MRIで異常がないと薬だけ出して終わりということが多い。めまいの患者ではDPPVが一番多いが、脳外科ではそれに対応できない。頭痛の99%に異常はない。画像に異常がないとNSAIDsを処方して、薬剤誘発性頭痛を作っている。うつ病も見逃すことが多い。受けた教育が偏っていることを痛感した。そんなとき、『家庭医・プライマリケア医入門』という本に出会った。総合医とは総合する専門医なのだということがわかった。

札幌医大の総合診療科で総合医としての基礎づくりをした(病歴聴取、身体診察など)。学生さんとの学習会:EBM。勤医協へ赴任してから教育の重要性に気付いた。またそこで総合医が認められていることへの驚きと健全なスペシャリズムのあることを知った。

日本の医療情勢。
高齢化率の上昇し、複数の問題を抱えている患者や加齢・廃用の比率増加。総合医、老年医学のニーズが増加する。病院機能の限界。健康増進が重要。複雑系を扱う専門性が必要。Versatilist(十分深い専門性と周辺分野も適度に詳しい:造語)がもう少し増えていかないと日本の医療はうまくゆかない。専門医を活かすためにはもっとたくさんの総合医が必要。超専門医は少人数でよい。そうなれば相乗効果がでやすい、休みをとりやすい。John Fryの「理想の医療供給体系」を紹介。

世界の医療情勢。
マッキンゼーによる分析。各専門医数の規制がないのは米国と日本のみである。医師への規制があるのが世界の流れである。不足する科ではインセンティブを賦与している。
米国の現状:コストが他の国の2倍で、GDPの17%(2008年)。高額な医療機器の使用と外科手技が多いためである。臓器別専門医が多いと医療費がかかる。プライマリケア医の育成を強化する。一方、英国の現状。医療費を8.4%に上げた。プライマリケアを重視し、患者満足度が上がった。

これから医師になる方への問題提起。
総合医が提供する医療は専門医よりもレベルが低いのか?「NO!」である。卒業時にプライマリケア医を目指すのは数%である。各科の専門医の必要数が検討されていない。「日本の医師は、できれば最初の5年間くらいはgeneral physicianとしてのトレーニングを積むべきだ」というハワイ大学外科町淳二先生の言葉を引用。

general physicianになるには、初期研修が重要で、そこで育まれるジェネラルマインドが大事。それはローテーションをしただけでは身に着かない。居間の初期研修は本幹なき枝葉末節教育になっていないか。よい研修とは、病歴と身体診察を重視した研修医向けカンファランスをやっていること。研修目標が明確であること。うまくいっている病院とは、大学の派遣を受けていない、ジェネラルマインドをもっている、教育に力を入れている病院である。臓器専門医と総合医が協力することが大事である。

勤医協中央病院の新しい取り組みを紹介。屋根瓦式研修医教育やMini-CEX,プロフェッショナリズム教育、ヒアリハットカンファランス、等。

先輩からの熱いメッセージであった。それに対して学生さんから「日本や世界の専門医、総合医の実態について知ることができて有意義であった」「初期に幅広い研修を受けたいと思うようになった」いう意見が寄せられた。(山本和利)