札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月22日水曜日

臨床推論

2月15日木曜日 医学部4年生に臨床推論入門と題した診断学の基礎の基礎の講義を行った。

 最近の医学生は学年の節目節目にCBTやOSCEなどの試験があり、我々が学生だった頃に比べてかなり勉強している(させられている)。
 しかし、その内容は、主訴や現病歴や検査結果など結果が全て揃った段階で診断するいわゆる「後ろ向き推論」であったり、病気のキーワードをうまく探し当てて、病気あてクイズのような勉強をしていることが多い。
 今回の授業では、我々現場の臨床医が日々行なっている「目の前の患者さんの病気の診断をする」という過程での、臨床医の思考過程を解剖してわかりやすく伝える内容にした。

 まずは、患者さんの訴える主訴(今回の授業では「腹痛」)から考えられうる病気をできるだけたくさん挙げてもらい、その中かから、目の前の患者さんに起こっている症状の変化などから、最もそれらしい病気(Most Likely)と、見逃したら命を取られてしまう病気(Must Rule Out)と可能性のある病気(Others)に分ける作業をしてもらった。


 今回の授業は、「講義」という名の「実習」に近い内容としたので、学生にどんどん鑑別診断を発言してもらうことを期待したが、やはり、挙手して発言をする学生はひとりもいない。

 そこで、こちらから指名し、指名された場合は起立しての発言を求め、「解りません」は認めないことにした。実際、臨床に出れば、研修医だからといって、自分が未経験だからという理由で診療を拒否することは法律上出来ず(応召義務)、患者さんを目の前にして「解りません」では済まされない。こうした臨床の緊張感を少しでも経験してもらうために、このようなルールとした。
 こうすることによって、授業に緊張感がうまれ、授業中寝始める学生はひとりもいなかった。

 主訴「腹痛」から鑑別疾患を考えていく際のコツとして、「個々の臓器を中枢神経系・肝胆膵系・腸管系・心血管系などのように臓器系に分けて、系統的に疾患を挙げていく方法と、発症時期からの時間経過で、突然発症・急性発症・亜急性発症・慢性・繰り返し等によって分ける方法と2つを紹介した。(A/Bアプローチ)
 またこの2つを縦軸と横軸として表を作り、最初に挙げた疾患をその表の中に分類していく方法を紹介した。

 そうして、挙げた膨大な鑑別疾患から、目の前の患者さんの病状経過と最も合うものはなにかを考えるために患者さんからどのようなことを聞き出せばいいのか?
 その効率的な聞き方として、「COMPLAINTS+AMPLE」を紹介した。この方法以外にもいろいろな人がいろいろな方法を提案しているが、まずは基本の基本として、紹介した。

 そうしていた情報から、目の前の患者さんに
 1)最もそれらしい病気
 2)見逃したら命を取られる病気
 3)可能性のある病気

の3つに絞り込んでもらった。

 ここで、
1)疾患を確定させるための身体所見・臨床検査
2)疾患を否定するための身体所見・臨床検査

 について考えてもらった。
その検査は「疾患を否定すために行うのか?疾患を確定するために行うのか?」

 要するに検査特性の「感度」や「特異度」のことなのであるが、
学生諸君はこれまでそのような視点で臨床検査を考えたことがあまりなかったようで、かなりの驚きを持って受け入れられたようだ。


 ここまでで約2時間半が経過。
 このあと、もう1例主訴から鑑別を考えていく例題を解いて講義は終了とした。
 
 今回の講義では、現場の臨床医が、診断を確定(もしくは除外)するために検査を行うまでの思考過程をじっくり分解して教えたが、学生諸君にとっては、ここまで一つの症例を掘り下げて勉強したことはなかったようで、かなり好評であった。

 今後のベッドサイド実習での応用を期待したい。(助教 松浦武志)