札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月19日日曜日

酸関連疾患をめぐる話題

2月18日、内科学会地方会の専門医部会教育セミナーで、2名の演者の講演を拝聴した。

札幌医科大学篠村恭久教授。
胃食道逆流症の原因は食道括約筋の弛緩。GERD4割、NERD6割である。ピロリ菌感染の低下(除菌で増加)、肥満(欧米化、運動不足)と関係している。除菌で酸分泌が増加(皺壁肥大型)と言われるが、実はピロリ菌の感染部位によって、除菌効果は異なる。前底部型は正常化するが、その他は酸分泌が増加する。

症状は胸やけ、呑酸。診断はGIF,pHモニター(日常診療では難しい)、Fスケール問診表(8点以上で可能性が高い:感度62%、特異度59%)、PPIテスト(感度75%、特異度83%)等。

治療は生活指導(タバコ、アルコール、チョコレートを避ける、体重を減らす、腹圧を減らす、ベッドで頭部挙上、就寝前の食事を避ける)、薬物(PPI, H2ブロッカー、消化管運動改善薬)。GERDの方がNERDよりもPPIの治療効果は高い。

Barrett食道から食道センガンが発生しやすい。定期的な内視鏡検査が必要である。

北海道大学光学診療部間部克裕氏
「消化性潰瘍と胃癌の対策」
胃潰瘍の原因;ピロリ菌、NSAIDs,ストレスである。内視鏡治療が主流。治療翌日の再検も重要。絶食は無意味?(エビデンスがない)ピロリ菌陽性者は除菌をする。検査後、アスピリンを中止したままでは潰瘍による出血よりも、心血管死が増えるので、すぐ再開することが重要である。除菌はPPI+AMPC+CAM400、PPI間で治療効果に差はない。除菌直後の抗潰瘍薬は必要だが、その後は不要(1年以内)である。除菌率は80%。二次除菌では90-95%。抗菌薬にアレルギーがある人はPPIのみでゆく.
ピロリ菌の胃潰瘍発症リスクのオッズ比は18倍,NSAIDは19倍,両者では60倍。NSAIDsの投薬経路で差はない(座薬でもリスクは同じ)。NSAID潰瘍の治療中は除菌しない(治癒後に行う。治癒が遅れるというデータがある)。

ビフォスホネートは潰瘍を増やす。一方、ステロイドでは潰瘍のリスクは高めない!

ピロリ菌と胃癌
慢性胃炎→鳥肌状胃炎、分化型胃癌0.4%/年の罹患。日本では毎年11万人が胃癌になる。除菌で胃癌発症が1/3になる。胃癌の原因はピロリ菌感染である。胃粘膜委縮の進行が胃癌発症と相関する。
血液検査のABC検診(ピロリ検査+ペプシノーゲン法)が有用。A群はリスクなし(一生変化しないので、胃癌健診は不要である)。B群は年に一度内視鏡検査を。C群は高リスク群。除菌後の人はE群とする。これをもとに胃癌撲滅プロジェクトが進んでいる。無症状の若者に検査、除菌することに対するコンセンサスはない。日本では、現在ピロリ菌の感染率は大幅に低下している。

胃潰瘍や胃癌に対してエビデンスに基づいた対策が進んでいるということが非常に印象に残った。(山本和利)