札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月2日木曜日

モラルのある人はそんなことはしない

『モラルのある人は、そんなことはしない 科学の進歩と倫理のはざま』(アクセル・カーン著、トランスビュー、2011年)を読んでみた。

著者は医師で遺伝学者。パリ・デカルト大学学長。

徹底した人間中心主義。「自分自身であるためには他者が必要である一方、他者も他者自身であるために私を必要とする」。著者の意味する善とは、他者の人間性を自分の人間性と同等に扱い、これを保護する目的から生ずるすべての思考や行動である。

著者はユダヤ系。両親は離婚。ヒステリーの既往。父親が自殺。臨床医から研究者へ。離婚したことや性癖などがまず、第一章で語られる。ここまで暴露する必要があるのだろうかとも思った。

道徳とは、善と悪を認識する知恵であり、各自に課せられた要請である。一方、倫理とは、個人的な側面が強く、「正しい道筋」およびそれをつくりあげる価値観についての考察である。

その後の章で、様々なテーマが論じられる。医薬用の子どもをつくってよいのか。白血病の子どもを救うために、その患児と同じHLAの型が一致した胚を選別するという医療行為は許されるのか?ヒト胚の位置づけが論じられる。ヒト胚の死後の委譲は可能か?

他人の精神に介入することは、それが救済につながるのであれば、正当化されるのか?

臓器移植と臓器提供。臓器提供に同意に関する本当の自律とは何か?

科学技術を用いれば、不完全な人間を「改良」できる。これは脱人間化社会につながってゆく。このような考え方が問題であると主張する。

「医学は非人間性を育む」ということばが出てくる。日常の忙しさにかまけて思索を疎かにしていると、知らぬうちに「非人間性」の医療に流されかねない。(山本和利)