札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月13日月曜日

患者の語り

2月13日、NBMの授業の一環として患者さんから患者体験を語っていただいた。

前説として、私の出会った患者さんを紹介する意味で拙著『医療における人間学の探求』の冒頭の数ページを朗読した。(途中、突然のめまい感に襲われ、5分ほど中断した。過労?)
 
初期対応に問題があり診断がつくまでに10年間苦しんだAさん。冒頭、不定愁訴の患者が多い、ということを学生さんには知ってほしい、と訴えた。患者の言葉の中には、鍵となる言葉がある。それを見逃さないように。

小児喘息の持病を持っていた。その時代は、心が弱い、精神修養ができていないという風潮があった。そう言われて傷ついた。長い通学路、喘息の発作を悟られないように気をつかった。今すぐ治してもらえる手段がなかった。皆も我慢しているのだろうと思っていた。誰にも助けてもらえないという不安感がいつもあった。

中学に入って喘息も落ち着き、気管支拡張薬を使うことが減った。大学生になって夕焼けを見ていても青空を見ていても涙が出てくる自分に気づいた。鬱なのかなと思っていた。

24歳になって動悸がひどくなった。階段を登っても症状が改善しない。食欲があり一見元気のため、誰も取り合ってくれない。喘息が再度悪化した。処方されたβ刺激剤を内服するとドキドキして死にそうであった。恐怖感がひどかった。寝付きが悪く、目が見開いて目がランランとした状況であった。いつも腹ぺこ状態であった。食べても太らないので皆にうらやましがられた。早朝の脈拍が90/分。排便後120/分であった。

あるとき過呼吸症候群で病院に救急搬送されたが、心が成熟していないと言われ、2時間放置された。
親戚にバセドウ病がいたので、バセドウ病ではないかとかかりつけ医に訊いてみた。首を触ってもらい、血液検査をしてもらった。コレステロールが低いといわれたが、「肩こり・ストレス」と診断され、ビタミン剤を処方された。少しも治らないので奇病と思っていた。健診で心臓に雑音があると言われ、大学病院を受診したが、不整脈はあるが心臓に異常はなく、気のせいといわれた。その結果、自分を責めるようになった。そのうち飲み込めなくなり呂律が回らなくなった。ひとりでご飯を食べられなくなった。海の底でおぼれているような感じであった。

ある日、地下鉄で動けなくなった。暑い日が続く夏、母親に大学病院に連れて行ってもらった。担当医師ははじめ甲状腺疾患を疑ったようだが、以前の開業医での話をしたら、気のせいということになった。あと受診するとしたら精神科と言われた。その頃、JALのジャンボジェットが墜落したニュースを聞いて恐怖にかられた。喘息が悪化し始めた。気管支拡張剤を上限まで使っても喘息が治らない。市中病院を受診し入院を勧められたが仕事の関係で断った。夜間救急では医師の指示通りの処置を受けると心臓がドキドキするので、いい加減に吸入をした。その場面を看護婦に見つかって仮病と言われた。その後たまたまよい医師に出会って甲状腺ホルモンとシンチ検査を受けた。そこではじめてバセドウ病と診断された。米国で生活。薬がなくなり受診したら、南欧出身の医師に無視された。半年後に血液検査の異常の報告を受けた。現在、再発寛解を4回繰り返している。喘息は薬剤でうまくコントロールされている。

10年間、診断がつかずに苦しんだ経験をAさんが語られた。学生さんにはAさんに宛てて感想文を書いてもらった。患者さんの想いを生で拝聴して、医療の難しさ、医師の態度、構え等、学生の心に訴えかける授業であるという意見が多数寄せられた。(山本和利)