札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月18日土曜日

ナラティブ

2月17日、NBMの授業。月寒ファミリークリニックの寺田豊医師の講義を紹介したい。

ナラティブ、NBMって?
患者中心の医療って本当にそうなのだろうか? 患者の「語り」を通じて、患者の「思い」にアプローチしようとするのがNBMという実践法 である。EBMという実践法が唱道されたが、EBMのみでは不十分でありNBMで補完する必要がある。

語られざる物語を聞き取る
• 病いの語りは、明快に言動的な語りとして語られることは少ない
• 医療者の物語を強引にあてはまようとすると、治療関係は崩れる
• 物語は、非合理的で、矛盾に満ちているが、寄り添いながら聴きつづける態度にある。

なぜ、と問いかけることが重要。「物語は何故から始まる」からである。
• 患者さんの言葉を自分のことばで語り直す;語りの生成力→生成継承性
• 生成継承性(generativity); 調和的な方向に変え、前向きに生きていく力に回復させ、生成力強める働きを意味する
            (Erik Homburger Erikson) アイデンティティの概念の創始者

医療者のナラティブ
• 医療者は、いくつかの物語を頭に浮かべて診察する
• 検査によって、疾患を見出して、治療すれば、問題は解決すると考える
• 治療者自身の物語を問われるようになり、治療者自身の姿勢も問われるようになる
• 相互変容していく覚悟が必要である

NBMとは
1.客観的なとらえ方は「事実」と言えるのか?
2.客観的でないものは,主観的なものか?
3.客観的な事実は主観の多数決にすぎないのではないか?
4.治療者は客観的か?
5.治療者も当事者であれば、客観的はどこにあるのか?
6.そもそも、なぜ客観的な事実にこだわるのか?
今まで当然とされていたこと、前提としてきたことを疑問視していくところが、NBMの意味がある。

医療に与えられている大きな特徴(「病いの語り」アーサークラインマン)
• 患者によってその人生の内奥への接近を許されていること
• 患者の物語がケアの一部となる
• 患者の経験に耳を傾ける経験によって、医療者は、そのケースに積極的に関心をもち続けることになる。
       
ライフストーリーとは、その人が生きている経験を有機的に組織化し、意味付ける行為である。人生の物語は、ある特定の人に向かって語られるとき、ある意味において、語るものと語られるものとの協同の産物である(Bruner,J.S. 1990)。

ライフストーリーとは; 自分の生に対する意味づけを反映した言葉による織物=ナラティブ

ライフストーリーの意味は、
1)私たちは論理モードではなくて、物語モードで生きている
2)物語モードが記憶など認知情報処理に優れている
3)物語モードは出来事のつながりを問題にして新しい意味を作り出す
4)物語モードは問題を複雑なまま、それをまるごと一般化して、モデルとして代表させる方向性を持つ
5)振り返りの循環に物語モードは有効
6)物語モードは論理知ではなくて、感性知にかかわっている

ナラティブ・メディスン(Rita Charon)
• 物語能力(Narrative Competence)が医療を変える
• 物語的な行為がなければ、患者は自分が体験していることを他者にあるいは自己自身に伝えることはできない
• 読むこと、書くこと、省察することを通して、医療者は患者の病いの物語の誠実な力強い読者となり、患者の苦境を意味のあるものにする
• そして深い共感を持って、彼らが見てとる苦悩に名前を与え、理解し、ケアする者として、自分を謙虚に差し出すことが出来る

患者の語りと医師の語り
• 説明モデルとは、「患者が思っている」と医師が思うことの一つの解釈であり、患者の実際の言葉を直接描写したものではない。「病いの語り」アーサークラインマン
• 病いの語りを正しく理解するためには、言葉を深く分析しなければならない
• また同時に自分自身も省察しなければならない

アンテナ感覚
・面接者は毎度の面接の「正式接遇」の際の自分の言動すべてに鋭いアンテナ感覚を向けて正確に想起できるようにしなさい。
・そうすれば上達のこつをつかむことができる。

Illness is a foreign country.
• 多くの患者さんはガイド、通訳を必要とする。
• (EBMを用いる)臨床医は、治療などに関して事実よりむしろ友人、家族またはインターネットなどの患者体験に影響を及ぼされるとき、フラストレーションを感じることがある
• しかし、患者体験「患者の語り」は、患者の見解、行動を理解するのに医療者にとって不可欠である。

説明モデル
• 医師患者関係の問題の改善に役立つ可能性を秘めたアプローチである。
• 治療者が自身と患者とそこから解放するための手助けとなる。
そのためトレーニングが必要である。

(やや羅列傾向があるが、責任はまとめた山本和利にある)

このような授業を通じて、患者の思いを汲みとることができる医師に是非なってほしい。(山本和利)