札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年2月21日火曜日

診療録とプレゼンテーション

臨床入門講義 診療録の書き方と臨床プレゼンテーション
実は助教となって初の授業でした。
これから臨床医として歩み始める学生に向けて、臨床入門としての一連の講議のうち診療録と臨床プレゼンテーションを担当しました。

一見無味乾燥になりがちな基礎的な内容であるので、より分かり易く楽しく学べる講議を目指しました。

資料作製中に学んだ事ですが、診療録、いわゆるカルテは実は和製ドイツ語です。由来は文明開化の明治初期にドイツ医学を導入した際に造語され、本家ドイツではpatianten akte、または kuraken akteと言うようです。英語ではMedical recordまたはMedical chartです。

全体を総論と各論の2つに分けました。総論部分ではカルテの重要性、法的な位置付け、存在意議について。近年の医療現場では診療録が多職種の医療従事者にとって医療情報共有の要となっていること、キチンと書かれた診療録は医療の労働生産性を上げ、医療チームをリスクから守る事を理解して貰うように、判例や自身の経験談を交えて説明しました。

各論では次の臨床プレゼンにつながるようにPOMR方式の診療録の基本的なフォーマットについて解説した後に電子カルテのメリットとデメリットについても述べ、電子カルテ自体が発展途上のものであり、ならばこそ基本的な診療録の記載能力が大切になってくる事を強調しました。

しばらくの休憩の後に臨床プレゼンテーションの講議にうつりました。
冒頭に少し実験を行った。
① 学生同士2~3人で何も見ずに自己紹介してもらう
② 学生の中から無作為に指名し、「自分の相手の事を他己紹介する」
③ 次に各自に自己紹介のフォーマットを渡し、自分で記入した後に仲間に渡して、さらに何も見ずに自己紹介をしてもらった。その間仲間はフォーマットに更に情報を埋めていく。
④ ②と同様に学生の中から無作為に指名し、「自分の相手の事を他己紹介する」
プレゼンテーションをおこなってもらった。
指名された学生は少々面食らったようでしたが、当然ながら後者の場合の方で情報量が多く、プレゼンテーションもスムーズで皆の理解度も高かった。プロの情報伝達の上で、語り手聞き手双方に、まず共通の「型(フォーマット)」とが重要であるという事を体験してもらえたとおもいます。

その後は臨床におけるプレゼンテーションの意味や重要性、基本的な流れに続き、臨床で用いる実践的なプレゼンテーションの技術(3秒、30秒、3分以上)について解説しました。

プレゼンテーションはきちんとした共通のフォーマットがあり、臨床医はそれに基づいて情報を共有し、医学的ディスカッションの土台とします。本来は何科の医師でも初期研修のうちに身につけておくべきものです。(実際に米国ではそうしている。)良い臨床プレゼンテーションは聞き手の理解の棚の中に情報の詰まった箱を並べてゆくように理路整然としている。プレゼンテーションの共通フォーマットというのは前の講議で述べたPOMR方式の診療録に基づいている。その流れを学生には理解してもらいたいと思います。

診療録をきちんと書く事は医療者としての基本ですが、自分の受けた初期研修では上級医から白紙の用紙を渡されて記入頂日も含めて全て再現し、暗記してプレゼンテーションする事が当然、でした。ところが最近は初期研修を電子カルテの完備された大規模病院で受ける事が多いためか、コピペを多用して書くのみで研修医によっては明らかに情報整理ができなかったり、プレゼンテーション能力に差がある人が目立つ気がします。

医師になってから日常臨床の忙しさ、慣れ、個人の専門性によって診療録の記載は簡略化されていく事は否めません。しかしながら学生時代からくり返し意識して教育を受けていってもらいたいと思います。

助教 稲熊良仁