札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月14日火曜日

臨床哲学講座

『わかりやすいはわかりにくい? 臨床哲学講座』(鷲田清一著、筑摩書房、2010年)を読んでみた。

難しい内容を難しく話す人(学者)は多いか、それをわかりやすく話す人は少ない。著者は数少ない後者である。
本書は、意味について、ふるまいについて、人格について、生理について、ホスピタリティについて、責任について、自由について、コミュニケーションについて、弱さについて、家族について、市民性について、知性ついて、等を分かりやすく掘り下げて解説してくれる。

「ホスピタリティについて」の章では、待つことについて考察している。現在は、待つことがなくなった。携帯電話の普及で待ち合わせの場所で待つ必要がない。TVコマーシャルの終わるのが待てない。母親は子どもの成長が待てない。大学も「評価制度」を導入して、長期間の成果を待てない。

「待つことの大切さ」を説いている。「訪れを待つ」、「寝かせる」も同義である。期待して待ってはいけない。「イニチアチィブの放棄」である。待つとは苦しいことである。なかなか報われない。期待することを断念し、祈るようにして待っていた事柄をも諦める中ではじめて、本当の待つが始まるという。(私の場合、新たな教室員が入ってくれるを待つのが辛かった。ニポポ・プログラムに研修医が入ってくれるのを待つのも辛かった。できることをして待つしかないのだが・・・。)自分を「待つ者」としてはなく、「待たれている者」として受け止める。相手を立てること、相手が一番心地の良く思う状態へともっていってあげること。これがホスピタリティの思想である。

「知性について」の章。一番大事なことは、既にわかっていることで勝負するのではなく、むしろわからないことのうちに重要なことが潜んでいて、そしてそのわからないもの、正解がないものに、わからない、正解がないまま、いかに正確に対処するかということなのである。(総合医・家庭医の対応に似ている)。それなのに現実では二者択一を迫られ、即答を求められる。必要なことは、同調できない者と意見を摺り合わせてゆく対話の技量である。

本書を読み進めると、現実の問題解決にとまどい、一歩も前に進めずいる自分自身が、それでいいのだと慰められる。不思議な本である。(山本和利)