札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月2日木曜日

偶然とは何か

『偶然と何か その積極的意味』(竹内 啓著、岩波書店、2010年)を読んでみた。

著者は長く統計学、経済学、科学技術論の研究に携わってきた。その著者が、確率論の導入によって「偶然」は克服されたという考え方に対して、自然の認識にしても人間の生き方としても正しくないという論点に立って書いた本である。

偶然と必然とは対の概念。必然でないことが偶然である。本書では偶然を科学と人間の現実生活の観点から言及している。ここでは起こったことについて、科学的・論理的に必然性が示されないような事象を偶然と定義している。

ニュートンの宇宙ではすべてが必然である。アリストテレスの4原因のうち、質料因(質の違い)、目的因(神の意志)、形相因(完全な形になるような秩序がある)は否定され、動力因(万有引力の法則)だけが近代科学では認められている。

デカルトの心身二元論:心が物理的法則に従う身体とは独立のもの(2つの原理が存在することになる)。これは一元的な決定論と矛盾する。ラプラスは、偶然は人間の無知から生じるが、「確からしさ」を知ることができるので確率の数学的理論を展開した。

偶然を発生させるメカニズム
1. 初期条件のわずかな違いが結果に大きな違いをもたらす場合。
2. 2つ以上の互いに無関係な因果関係が同時に働くことによって生じる場合
3. 微細な多数の原因として生じる連続的変動
確率
「多くの偶然現象が積み重なれば、偶然的な影響は互いに打ち消し合って一定の傾向が現れる(中心極限定理)」
「それでも残る偶然的な変動部分は釣り鐘型の分布になる(大数の法則)」
賭博者は必ず破産する。

論は「偶然にどう対処すべきか」、「歴史の中の偶然性」と続くが、自分自身の生き方に積極的に取り入れるべき視点に出会うことはなかった。(山本和利)