札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月14日火曜日

地域再生の罠

『地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか』(久繁哲之介著、筑摩書房、2010年)を読んでみた。

地域再生策のほとんどは、「成功事例を模倣する」という発想に基づいているが、それには2つの欠陥があるという。1)専門家が推薦する事例は、実は成功していない、2)稀な成功事例は異国や昔の話で模倣が極めて難しい、ということである。

大型商業施設への依存が地方を衰退させる。地方固有の文化や資源を活かそうとする「市民の営み」に求めるべきである。街を見る者には「視察」ではなく「体感」することが求められる。地域再生の施策は「提供者側の中高年男性」だけで策定されることが常態化している。それが一番の問題である。アンケートの8割は結論が事前に決まっているので参考にならない。施策者は失敗に目を向けないし、責任を取らない。ないものねだりをして、地域にある資源には無関心である。モデル地区を褒めそやす提灯持ち。車優先空間が空き店舗をさらに増やす。女性グループや若者の会話に耳を傾ける方が余程役立つ。

著者の提案:1)人優先空間を作る、2)市民が安心して連携・参加出来る仕組みを創る、3)利益は個店単独ではなく、地域全体で出す、4)大型店やネット店と戦わない戦略を構築する。宇都宮の「ギョウザ、カクテル、ジャズ」、松江の「水の都、カフェの街」。ブランド化で豊かになれるのは一部の産業者だけ。オヤジ視線のない店が大人気。オヤジ色に染まる地域はさらに衰退。首長の意欲が役場を変える。市民の足を斬り捨て、駅前開発を優先。鉄道廃線後の地域は著しく衰退する。人より車を優先する都市は衰退する。

市民と地域が豊かになる7つのビジョン。1)私益より公益、2)経済効果より人との交流、3)立身出世より対等で心地よい交流、4)箱物より市民が優先される地域作り、5)市民の地域愛、6)交流を促すスローフード、7)心の拠り所となる居場所。

著者は、特にスローフードとスポーツクラブによる交流の場を強調している。住みたいと思わせる地域でないと医師も行かない。地域医療再生の前に地域再生が求められる。我々医師はどうか関わればよいのか。試行錯誤を続けたい。(山本和利)