札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月7日火曜日

多様な意見

『「多様な意見」はなぜ正しいのか』(スコット・ペイジ著、日経PB社、2009年)を読んでみた。

複雑系の専門家が書いた「多様性」の謎に挑んだ本である。 副題は「集愚が集合知に変わるとき」である。久しぶりに出会った名著である。組織変革を目指す人には一読をお勧めする。

「4つの枠組み」が基本となる。観点、ヒューリスティック、解釈、予測モデル。

まず観点が重要である。正しい観点は難しい問題を簡単にしてくれる。革新するためには新しく多様な観点を生み出す必要がある。他分野の人の意見を入れること。例として、金属の並べたかを挙げている。メンデレーエフが金属への原子番号を導入することによって周期表を作り、それを見て元素の作る構造を目の当たりにする(はじめあった空白もそれを埋める新元素が発見された)。正しい観点によって問題が簡単になる。観点とは、現実から一つの内的言語への写像で、物事、状況、問題、出来事にそれぞれ固有の単語を写像させるようなものである。例:何進法、デカルト座標と極座標。

ヒューリスティックは解を探す方法ということである。誰かがある問題を違う風に観る。ヒューリスティック(近道思考)は希望を与えてくれる。新たなヒューリスティックは、観点が作り出した箱の中に予想もしない動きを生み出す。観点は解釈の基礎となる。例:緑色のケチャップ。ペプシコーラがコカコーラに対抗するため2Lサイズを採用

予測するにはモデルが必要である。観点に基づく解釈をカテゴリ化という。粗い解釈に基づく予測モデルではたいていが不正確である。

多様性が能力に勝る。多様な観点とヒューリスティックは、楽しさの原動力になる。一様の集団はたった一人の人を含んでいるのと変わらない。問題解決に取り組む組織は、多様な観点とヒューリスティックへ変わる多様な経験・訓練・アイデンティティを持つ人たちを探すべきである。

「多様性予測定理」、「群衆が平均を負かす則」多様な群衆は各個人の平均より必ず正確に予測できる。群衆はその中の人より良く予測できる。興味のある人は本書の熟読を。簡単な統計手法を用いて、証明している。

優秀な能力を持つが均一な集団だけで知恵を絞るよりも、意見の異なる多様な人が集まって意見を出した方が、名案がでるということである。地域医療がよくならないのは、医師や一部の官僚だけで考えているからではないか。自治医大の尾身茂氏が多様な国民を集めて、この問題を打破しようとしている。期待したい。(山本和利)