札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月6日月曜日

暖かな医療


12月4日、北海道保険医会 創立60周年記念フォーラムで諏訪中央病院名誉院長鎌田實氏の講演を拝聴した。講義のタイトルは「日本の医療をどう支えるか」である。

「暖かな信頼が得られる医療」が基本である。医療崩壊と言われているが、まだ土俵際である。一瞬経済で世界一になったが日本人は幸せでない。政治のリーダーが出て来て欲しい。この10年政治家は言い訳しか言っていない。小泉政権は米国の真似ばかりしている。教育、医療、雇用、子育て、福祉に、暖かい血を通わせなければならない。

パレスチナへ行ったときの話。300名の子供がある年の正月に殺されている。12歳の子供がイスラエル兵士に狙撃され、脳死状態でイスラエルの病院へ収容された。脳死と判定され、イスラエル人へ臓器提供を父親が申し出た。その父親に面談してきた。心臓移植を受けた少女の家には、殺された12歳の少年のポスターが飾られていた。少女の母親は「感謝している」が、被害者の父親に「さぞ辛いでしょうね」という共感の言葉をかけた。少年の父親は少女に会えてうれしいが「喜びは半分だ。平和が来ていない。」少女は医師になりたいという。政治や権力では平和をもたらすことができなかったが、その可能性があるのは医療である。この話から言えることは、この臓器移植を通じて単に臓器としての心臓だけでなく心が移動している。

いい医療があると町が活性化する。病院があることでバランスが取れる。脳卒中、医療費が減る。じいちゃんが白血病の「たぬきのばあちゃん」に世話になった。医師と住民が大事にされたり大事にしたりすることが必要。お互いさま。生活者としてその人がやれていることが大事。患者は本音をなかなか言ってくれない。

鎌田氏にまだ髪がフサフサシテいる時代に、日本で初めてday careを始めた。暖かい医療が基本。日本に欠けているのは暖かな気持ち。「強くて、暖かくて、やさしい国、日本」を作れるはずである。自己決定をしない、周りの空気を読む、あやふやな日本人が多い。NHKで放送された訪問診療を扱った「心の遺伝子」を紹介。研修医の言葉:「鎌田先生は、受けながら包んでゆく」。住民が研修医に対して「暖かさを受け継いでゆきなさい」と伝えてゆく。住民が一緒になって医師を育てる。生きがいをもつことが大事。六花亭のバレンタイン・チョコレート(いのちをつなぐチョコレート)の話(収益がイラクへの薬の義援金となる)。癌で死んだ少女が絵を描いている。その少女の言葉、「私は死ぬけど、幸せでした。私の絵が他の病気の人のためになってうれしい」。自分の困難や不幸を横に置ける。

赤の他人の「両親」に育てられたことに対する恩・感謝が鎌田氏の原点になっているということが伝わってくる講演であった。夫婦で拝聴したが、二人とも元気をもらい、今後の生き方について大変参考になった。

写真は別の機会に撮ったものである。(山本和利)