札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月14日火曜日

地域医療講義:総括

12月14日、札幌医科大学医学部4年生を対象に「地域医療講義:総括」というまとめの講義を行った。
導入はいつもの如く、映画の一場面から入った。北海道大学でも5月に行ったものと同じ内容。
・「洗濯ばさみを瞼に挟んでいる二人の少女の写真」。さて、どうしてでしょう?
・「小児悪性腫瘍がフランスの農村で増えているという話」を聞いて、さて、あなたが医師ならどうしますか?
・「家の前に山のような堆積物の前に立つ少年。」これは何でしょう?何をしているところでしょうか?
 そして、医療の話。
1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。大学で治療を受けるのは1000名中1名である。

今、医師になる者に求められるものはなにか?
医学教育における視点の変化(ロジャー・ジョーンズ、他:Lancet 357:3,2001)を紹介。
研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。その根拠として、Shojania KGの論文How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis. Annals of Intern Med 2007 ;147(4):224-33の内容を紹介した。効果/治療副作用に関する結論は,系統的レビューが発表後すぐ変更となることがよくある.結論が変更なしに生き延びる生存期間の中央値は5.5年であったからである。(5年間で半分近くが入れ替わる)

N Engl J Med の編集者Groopman Jの著書 “How doctors think” (Houghton Mifflin) 2007を紹介。60歳代の男性である著者が右手関節痛で専門医を4軒受診した顛末が語られている。結論は“You see what you want to see.”(医師は自分の見たいものしか見ていない)。

Engel GLのBiopsychosocial modelを紹介。フィードバックする層構造のシステム。

後半は、地域医療再生の試みとして5つの作業仮説を紹介。
作業仮説1.さまざまな臓器専門医を養成する。プライマリケア教育2年。臓器専門教育→臓器専門医取得。彼らが地域医療もする、という案。現状に近いが実効性がない。
作業仮説2。臓器専門医を50%、総合医を50%にする。車の両輪のように。しかしながら総合医志望者が少ない。どちらにも人間力が要求される。ある年の総合医希望者:0.8%。
作業仮説3.若者に期待する案。初期研修終了後、8,000名全員が1年間は地域医療に従事する。
作業仮説4.医師集団の自主性にまかせる。都市部に集中。臓器専門医に集中。開業医の増加・病院勤務医の減少。地域医療に従事する医師がいなくなる。その結果、医者以外の者に地域医療を任すことになる。Evidenceのあるものはナースがおこなう。地域の人格者に、生活相談にのってもらう。
作業仮説5.総合医チームによる循環システム構築する。総合内科医をめざす若手医師の確保。全国から若手医師が集まるような魅力のある教育研修病院作り。

学生への課題として、地域医療再生プランを書いてもらったところ、「医師を増やしても地域医療は再生しない」という意見が多かった。短期間であれば、地域医療に従事したい、強制的にすべきであるという意見も散見された。

この「地域医療」講義を14回聴講して、地域医療・総合医・家庭医に興味を持つようになったという感想が寄せられている。企画者としてはうれしい限りである。(山本和利)