札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2011年12月27日火曜日

さようなら、ゴジラたち

『さようなら、ゴジラたち』(加藤典洋著、岩波書店、2010年)を読んでみた。

著者は早稲田大学国際学術院教授。文芸評論家。

本書は複数の論文を集めている。その中の映画『ゴジラ』についての考察を取り上げよう。単に怪獣映画ではないかと思っていたら、この著者の深読みがすごい。ゴジラ映画は28作あり、それをすべて観ているようだ。
この映画は1954年に制作されている。1954年3月にビキニ環礁で米国が水爆実験を敢行。第五福竜丸が被爆し、乗組員の久保山愛吉さんが死亡。

「ゴジラは、なぜ南太平洋の海底深く眠る彼の居場所から、何度も何度も日本だけにやってくるのか」という問いから始まる。それは「ゴジラが亡霊だからである」。第二次世界大戦の日本人死者を暗示していると読む。

様々な者がゴジラの行動を分析している。ゴジラは銀座、桜田門の警視庁、国会議事堂を破壊しながら、皇居を踏みつぶすことをせず、海に帰っていく(川本三郎の指摘)。これに対して、戦争の死者であるゴジラは、天皇に会いに来たのだが、皇居には現人神であった統帥権者は既にいない。天皇は人間宣言して、新しい神たる米国の庇護下にあり、自分たちを見捨てたもうたのだ、と知って帰っていったと読む(民俗学者の赤坂憲雄)。

後半、「キングコングはなぜ米国にやってくるのか」についても考察している。別の論文で取り上げている、ハローキティや『千と千尋の神隠し』の考察も面白い。

本書の中心は自書『敗戦後論』に対する海外からの批判に反論した内容である。憲法第9条についての考察も興味深い(内田樹の憲法第9条についての考えに共鳴しているようだ)。
憲法第9条とゴジラがどうつながるのか。それは、ゴジラについて考察した『さようなら、ゴジラたち』の最後の文章に凝縮されている。

・・・、ゴジラはこれまで行かなかったところに行く。
行き先は、靖国神社。
ゴジラは、靖国神社を破壊する。

思想と行動をどのように繋げるのか参考になる書物である。(山本和利)