札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年12月17日土曜日

ショック・ドクトリン(上)

『ショック・ドクトリン(上)』(ナオミ・クライン著、岩波書店、2011年)を読んでみた。北米の経済理論が現在世界の荒廃を招いているということがわかる必読書である。

ニューオリンズの水害。
経済学者ミルトン・フリードマン(シカゴ学派)。経営者側の利益を守る方法を提示した。
壊滅的な出来事が発生した直後、災害処理をまたとない市場チャンスと捉え、公共領域に一斉に群がるような襲撃的行為を、著者は「惨事便乗型資本主義」と呼んでいる。

まず大惨事が起きると、国民は茫然自失の集団ショックに襲われる。そして一気に骨抜きになってしまう。本来ならしっかりと守ったはずの権利を手放してしまう。衝撃的な出来事を巧妙に利用する政策を「ショック・ドクトリン」と呼ぶ。ピノチェト政権下のチリ、イラクで実践されている。実際に起きたチリのクーデターでは3つのショック療法がおこなわれた。まずクーデター、次にフリードマンの資本主義ショック療法(国営企業の民営化、関税の撤廃、財政支出の縮小)、最後が薬物と感覚遮断を用いる拷問技術(企業の後援を受けた拷問:フォード財団が加担)である。最終的には大失敗に終わった(一部の大金持ちと世界有数の経済格差)。途中でピノチェトはアジェンデの方法をまねて、経済的破壊を免れたという。

英国におけるサッチャーリズム、ボリビアの事例が紹介される。危機から危機へと渡り歩き、誕生して間もない脆弱な民主主義生検の自由を奪うような政策を強引に推し進めた。1994年のメキシコのテキーラ危機、1997年のアジア通貨危機、1998年にロシア経済が破綻し、その直後にブラジルが続いた。そして、津波、ハリケーン、戦争、テロ攻撃に対して祭事便乗型資本主義が形をなしてゆく。

南アフリカ共和国は、マンデラによって素晴らしい出立をしたと思っていたが、実際にはフリードマンの手法に絡め取られて、白人企業は鐚一文賠償金を払わず、アパルトヘイトの犠牲者側が、かつての加害者に対して多額な支払いを続けるという構図だそうだ。

ソ連崩壊後のロシアの選択も同様に、「ピノチェト・オプション」を選択したということである。ソ連崩壊によるショックに国民が驚く間もなく、エリツィンはショックプログラムを採用し価格統制を廃止した。その結果、インフレによる貨幣価値の暴落で住民は老後の蓄えを失った。そして権力を握ったエリツィンは予算を削減し、国民の暴動を抑えるために警察国家へ走り始めた。そして一部の新興億万長者オルガルヒだけが「シカゴ・グループ」と手を組んで価値ある国家資産を略奪した。慈善家・投資家と知られるソロスも誘惑に勝てなかったという(所詮金儲け屋なのだろう)。エリツィンは権力にしがみつくため、独立を訴えるチェチェンと戦争を始めた。その後を継いだプーチンはエリツィンを免罪することを条件に権力に着き、大飢饉や天災もないのに恐怖国家へ突っ走った。ユニセフの推定では現在ロシアにホームレスの子どもが350万人に及ぶという。このような負の側面の原因は、シカゴ・プログラムではなく、ロシアの腐敗体質のせいにされた。その後、ロシアの「民営化」を手本として、アルゼンチン、ボリビアが続いた。ボリビアではベクテル社が水道料金を3倍にする「水戦争」を引き起こし、政権崩壊に繋がった。

今、プーチンは選挙不正疑惑で国民から見放されようとしている。一部の権力者・金持ちしか潤わないショック・ドクトリン。世界はこれからどこへ向かうのか。
下巻は未読。追って報告したい。(山本和利)