札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年12月5日月曜日

舟を編む

『舟を編む』(三浦しをん著、光文社、2011年)を読んでみた。

著者は編集者として出版社に就職することを志望して就職活動を行っていたらしい。その活動中、文筆の才を見出され、作家に転進。29歳で直木賞受賞。著者の父親は上代文学・伝承文学研究者の三浦佑之氏である。

辞書を作りたいという男が辞書を一冊も作らぬまま定年を迎えることになった。定年までに後継者となる辞書向きの人材をリクルートしなければならない。といった辞書編集者の話である。そしてジグソーパズルの名人に目をつける。

「犬」という言葉の意味や、「声」についての考察も面白い。「辞書は言葉の海を渡る舟だ」という。タイトルもそれに由来する。辞書編集者は、ホンのちょっとした言葉の違いにも敏感である。こんな例を取り上げている。「のぼる」と「あがる」の違いは、「あがる」は上方へ移動して到達した場所自体に重点が置かれているのに対して、「のぼる」は上方へ移動する過程に重点が置かれる。たとえば、「あがってお茶を飲む」と言うが、「のぼってお茶でも」とは言わない。なるほど。

辞書の記載の仕方には一定の規則があるという。もちろん主観を入れてはいけない。その制限の下で、辞書の個性を出すことは至難なことであろう。「西行」の記述についてのエピソードが参考になる。地味な内容となりそうなのに、内気な男の恋の成り行き等が織り込まれ、読者を飽きさせない。この著者の扱うジャンルは多彩(陸上競技、仏教、林業、等)であり、かつ内容が面白い。要注目!(山本和利)