札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年9月13日火曜日

科学性と人間性

9月13日、兵庫医大での講義、第2日目。

昨日から数えると4コマ目。医療分野を離れて、他の分野での科学的アプローチについて述べた。まず考古学の世界「神々の捏造」という本を紹介。「イエスの弟の骨箱が発見された」がそれが本物かどうか考古学でも学者の意見がわかれた。本物と認定されれば数億円の研究費がつき、偽物となると捏造の疑いで逮捕されかねない(天国か地獄か)。

次に「狂牛病」の経緯を紹介。1985年4月、一頭の牛が異常行動を起こす。レンダリング(産物は肉骨粉)がオイルショックで工程の簡略化により発症を増やしたと考えられる。1990年代に英国で平均23.5歳という若年型症例が次々と報告。経営論理を優先させた対応のしかたが、十数年後に医療に悲惨な影響をもたらした事例である。

次に農業の話。Rowan Jacobsen「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」を紹介。2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。何が原因か科学的に検証してゆくが、その結末は?

このような先例で忘れてはならないのは、農薬の害を告発したレーチェル・カーソンの「沈黙の春」であろう。ほとんどの学生がこの本の名前もレーチェル・カーソンも知らないということであり、少し寂しい気分になった。

医療における科学的なEBMについては時間の関係で割愛した。NMBの6Cアプローチを紹介した。

5コマ目は、腹痛患者のシナリオを提示し診断プロセスを解説した。鑑別診断の仕方に重点を置いた。ABアプローチ[Anatomy(解剖)とByoutai(病態)]を強調した。問診の重要性を実感してもらうために、途中2人1組になって医療面接の実演をしてもらった。学生は真剣に取り組んでくれた。最後に米国の家庭医療学の本からとった16例のケーススタディを行った。

兵庫医大の授業の内容は、数年前のそれと比較して6割以上が入れ替わっている。75分間の授業をぶっ続けで5コマ行うことは、声も枯れ、負担も少なくないが、自分自身の医療哲学を学生に伝えることができる貴重な機会である。この企画をしておられる鈴木敬一郎教授にあらためて感謝したい。両日ともに授業終了後、大きな拍手をもらい、疲れも吹き飛んだ。(山本和利)