札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年9月13日火曜日

医療と社会

9月12日、兵庫医科大学医学部5年生を対象に「医療と社会」という講義を行った。
今回も昨年同様1コマ75分授業を2日間でまとめて5回行うハードスケジュールである。

導入はドキュメンタリ映画の一場面から入り、学生に問いかけた。「洗濯ばさみを瞼に挟んでいる二人の少女の写真」「フランスの癌多発地域のこと」「家の前に山のような堆積物の前に立つ少年」等。その後、映画「ダーウィンの悪夢」を例にして、それぞれが最善を目指した結果、「ミクロ合理性の総和は、マクロ非合理性に帰結する。」「個々にとってよいことの総和は、全体にとって悲惨にある。」と結論づけ、地域医療にも当てはまるのではないか?と学生に問いを投げかけた。次に、「世界がもし100人の村だったら」(If the world were a village of 100 people)という本を紹介した。数人の学生は読んでいる。
 
ここから、医療の話。1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。日本も北米も大学で治療を受けるのは1000名中1名である。次に、「医療とは」何かを知ってもらうため、ウィリアム・オスラーの言葉を引用した。「医療とはただの手仕事ではなくアートである。商売ではなく天職である。医師は特定の技能をもつ者として権力から守られるという特権が与えられている。一方で公共に尽くすという使命があるということを強調した。

2コマ目、3コマ目の授業では、食料と貧困の話。PCLSで研修医・医師向けに行った講義を学生向けにアレンジして行ってみた。ここの学生はあまり、アジア・アフリカ等の地域へ旅行はしていないようだ。そのためか物乞いの収入を増やすため手や足を切断する話や貧困の原因が政治の腐敗であるという話を真剣に聴いていることが私にも伝わってきた。

3コマ目の最後で、私自身の静岡県佐久間町の地域医療活動を紹介。その後、オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。次にAntonovskyの提唱する健康生成論(サルトジェネシス)を紹介。彼は健康の源に注目。健康維持にはコヒアレンス感が重要である。必要とされるところでコヒアレンス感をもって青春時代を過ごすことは、その後に待ちうける中年クライシスを乗り越える際にその経験が支えになるという持論を展開して講義を終えた。(山本和利)