札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年9月3日土曜日

チンパンジーから学ぶ

『想像する力 チンパンジーが教えてくれた人間の心』(松沢哲郎著、岩波書店、2011年)を読んでみた。

著者は京都大学霊長類研究所教授。1978年から「アイ・プロダクト」(天才チンパンジー・アイの研究)と呼ばれるチンパンジーの心の研究をはじめ、野生チンパンジーの生態調査も行っている。本書は、チンパンジーの観察を通して、人間と比較し、人間独自の心に迫ってゆく。

人類はいつも複数いるのが普通であった。猿人、原人、旧人、新人はそれぞれが同時代を生きた別の人類であり、それぞれが死に絶えた。

チンパンジーはヒト科である。ヒト科は4属で構成され、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オラヌータンが含まれる。ゲノムの違いは1.2%。(98.8%は同じということ)。人間とサルでは6.5%の違いがある。稲のゲノムと人間のそれは約40%が同じであった。

人間とは何か。生活史や親子関係からみたとき、その答えは「共育」ということだそうだ。共育こそが人間の子育ててあり、親子関係である。

子育ての中身が5段階の変遷を経ているそうだ。1)母乳を与える、2)子が母親にしがみつく、3)母親が子を抱く、4)互いに見つめ合う、5)親子が離れ、子が仰向けで安定していられる。

社会的知性発達の4段階。1)生来、親子でやりとりするように出来ている、2)1歳半で同じ行動をするようになり、行動が同期する、3)新しい行動をまねる、4)模倣を基盤として、相手の心を理解出来るようになる。

チンパンジーに決してみられない行動は、進んで他者に物を与えることである。利他性、互恵性、自己犠牲。これこそが人間の特性である。

言語を獲得した。言語の本質は携帯可能性にある。「子育て」と「言語」を結びつけるキーワードが情報を共有するという人間の暮らしにある。

チンパンジーは絶望しない。一方、人間は容易に絶望してしまう。それは人間に想像する力があるからである。それを駆使して希望が持てるというのが人間でもある。

緑の回廊プロジェクトを紹介。
チンパンジーの生息地の自然が破壊されている。それを回復させるため、苗木をつくって、サバンナへ持って行って植えるという企画である。

一つの仕事を成し遂げた人の言葉には説得力がある。この著者には60歳を過ぎても大きな夢がある。サバンナが緑の森になってほしい。(山本和利)