後半に突入。
2×2表を書いて検査後確率を計算しよう。
検査の結果(横に)と真の診断の結果(縦に)である4種類の組み合わせを表現した図である。
| 至適基準 | ||
あり | なし | ||
検査 | 陽性 | TP(真陽性数:●) | FP(偽陽性数:▲) |
陰性 | FN(偽陰性数:■) | TN(真陰性数:◆) |
科学的な考え方。Bayesの定理
18世紀に英国人Bayes Tが考えたもので「はじめに考えた可能性」に「あとから得られた情報」を加味すると「あとで考える可能性」が得られるというものである。診療の場面では(検査前確率)を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて計算すると(検査後確率)が得られる、となる。
検査結果が陽性であれば即診断確定というわけにはいかず、表3-1でいうと、検査が陽性の場合の検査後確率=●÷(●+▲)であり、検査が陰性の場合の検査後確率=■÷(■+◆)である。
感度=●÷(●+■)=TP/(TP+FP)と表される。感度を知るためには、表を縦みることがポイントである。
特異度=◆÷(▲+◆)=TN/(FP+TN)と表される。特異度を知るためには、感度と同様に表を縦にみることがポイントである。
Aさんは50%、Bさんは 90% 、Cさんは0.5% とした(読者が計算しやすい数字とした)。A,B,Cの3人全員,負荷心電図でSTが1.6mm低下したとする.
その結果、負荷心電図ST低下>1.5mmをカット・オフ値としたときの感度は40%、特異度は96%である。
2×2表による計算
Aさん:50% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
あり | なし | |||
負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 200 | 20 | 200/220=0.91 |
陰性(0.0-1.50mm) | 300 | 480 | 300/780=0.38 | |
| 500 | 500 | 1000 |
Bさん:90% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
あり | なし | |||
負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 360 | 4 | 360/364=0.99 |
陰性(0.0-1.50mm) | 540 | 96 | 540/636=0.85 | |
| 900 | 100 | 1000 |
Cさん:0.5% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
あり | なし | |||
負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 2 | 39.8 | 2/40.8=0.05 |
陰性(0.0-1.50mm) | 3 | 955.2 | 3/958.2=0.003 | |
| 5 | 995 | 1000 |
Aさんの負荷心電図でSTが1.6mm低下したときの検査後確率は91% であり、1.5mm以下であった場合には38%となる。同様に求めるとBさんでは99% と85%、Cさんでは5% と0.3%となる。このように検査結果が同じであっても検査後確率は異なることが学生さんにも実感できたようだ。検査前確率を決定する問診、身体所見の重要性を再認識してくれた。
診断しようとする疾患の検査前確率がCさんのようにかなり低いとき又はBさんのように高いときには、検査後確率の変動が少ないので、診断のためにあえて検査をする必要はない。また、検査前確率が高いときには、陰性結果であってもまだかなり検査後確率は高いことが多く(Bの場合は85%)、陰性結果のみで最終診断とすると偽陰性という誤診になりかねない。検査前確率が低いときには、陽性結果が得られても(Cの場合5%)、偽陽性の可能性の方が強く残る。当然であるが、精査すべきなのは、Aさんのように疾患があるかないかはっきりしない場合である。
検査前確率の応用:診療の場
病気かどうかわからない人が集まる市中病院(A)、病気の人がたくさん紹介されてくる大学病院(B)、病気の人が少ない人間ドックや検診(C)に置き換えて考える.
大学病院では検査前確率が高いので、結果が陽性の時に病気と診断しても間違うことは少ない。一方、大学病院と同じ方法を用いて、診療所や検診の現場で実施すると、たとえ結果が陽性であっても偽陽性の可能性が高いということである。
すなわち、診断過程はどのような患者層を診ているかによって違って然るべきであると言えよう。
検査前確率の応用:検査前確率の間違った設定
ある患者について、大部分の医師が想定する検査前確率とはかけ離れた検査前確率を想定する医師は、確定または除外診断に至るまでに、さらに高額で危険な検査を追加するはめになる。そうならないためには、しっかり問診をし、身体所見をとって検査前確率を適切に想定できるようになって欲しい。(山本和利)