
4月9日、Evidence-Based Medicine 診断編1。その内容を紹介しよう。
はじめに、診断のプロセスについての解説をした。
4つのパターンが知られている。
1) パターン認識(pattern recognition, Gestalt):効率のよい近道となることが多いが、はじめに間違えると後戻りしにくい欠点がある。「動悸、発汗、体重減少」からバセドウ病を疑い、メルカゾールで治療した。実は亜急性甲状腺炎であった、というようなことがある(亜急性甲状腺炎ははじめ機能亢進でも自然に正常化し一時機能低下となることがある)。
2) 多分岐法(multiple branching method)
3) 仮説・演繹法(hypothesis-deductive method)
ベテラン医師が用いる方法である。
4) 徹底的検討法(method of exhaustion)
病棟でまれな症候を持つ患者などに教科書などを参考にひとつひとつ当ってゆく方法。
胸痛で考えてみよう。命に関わる病気を見逃してはいけない。4 chest pain killer(急性冠症候群、肺塞栓症、解離性大動脈瘤、緊張性気胸)。
1)鑑別診断を挙げる(5つ程度)
2)最も疑わしい疾患の検査前の可能性を設定する
3)治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないとき,検査をする
4)検査の特性を知る
5)検査前確率と検査特性から,検査陽性または陰性時の疾患の確率を計算する
6)まだ,治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないときは次の検査をする
■40歳の女性Aは階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが心臓病ではないかと心配して来院した。
■60歳の男性Bも階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが、やはり心臓病ではないかと心配して来院した。
■30才の女性Cは階段昇降時にズキンという10秒間続く左前胸部痛を主訴に来院した。
どんな疾患を考えるか。
労作性狭心症で考えてみよう。科学的に診断するためには、はじめに、事前(検査前)確率を想定することが大切である。
一般に医師が診断に用いる推論は患者の年齢,性別,人種,主訴から,ときに身体所見や検査データから初期仮説を形成することから始まる.これは経験的,主観的なものであるため、厳密なものではないが、データを蓄積することによって一般化できることもある
初期仮説で想定した病気の検査前確率は,病歴と身体所見から推定される.これまでは、「かなり」,「まれ」,「まあまあ」などと表現されていたものを数値、すなわち%や少数、分数で表現するようにする。これによって検査後確率が計算できる。
学生に想定させるとBさん(病気の可能性の高い場合)を低めに、逆にCさん(病気の可能性の低い場合)を高めに設定する傾向にある。
データとしては以下のようなものがある。
3つの質問を行い、その該当数と年齢、性別から検査前の確率を想定した。
Q1.前胸部に締めつけられる痛みがあるか?
Q2.運動で誘発されるか?
Q3.安静(亜硝酸剤)で治まるか?
これからゆくと、Aさんは55.2%、Bさんは94.3%、Cさんは0.3%となる。
大部分の学生はなんでこんな訳のわからないことをさせるのだ、という顔をしている。ここまでが前半の30分。(山本和利)