札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年4月12日月曜日

日本内科学会:日本の内科系専門医制度が進むべき道

49日、東京有楽町で開催された日本内科学会の「日本の内科系専門医制度が進むべき道−総合医のあるべき姿も含めて—」というフォーラムを聴講した。はじめに認定機構の池田康夫先生からわが国の専門医制度の概略があり、2つの論点に立って述べられた:1)医師の地域・診療科の偏在の是正、専門医認定の透明性・公正性の確保(中立的第三者機関が行う)。2)基本領域と専門領域の2段階制にする。問題点:学会が専門医制度を作り認定しているため、基準が不統一であり質が担保されていない。公的なサポートがない。臨床能力本位になっていない。今後、専門医の適正な数を設定し、患者の視点に立つ、プログラムの充実が直近の課題である。

次に福島県立医大の渡辺毅先生が2つの視点(ミクロの視点、マクロの視点)から話された。ミクロの視点:主訴から鑑別診断、決断治療、コンサルテーションに繋げることが総合内科に基本的能力として求められる。Subspecialtyの医師にも総合内科能力は大切である。マクロの視点;疾病構造の変化に対応できること。患者のニーズに対応する必要があるのに、慢性疾患の全身管理をする内科医を目指す者が減っている。さらに総合内科専門医を受験者は半減している。総合内科に限らず専門医(腎臓内科)の数において5倍の地域差がある。地域を基盤とした専門医制度を再構築する必要がある。地域医療連携の要として総合内科専門医を位置づけた。

次に千葉大学の生坂正臣先生が総合内科専門医のキャリアパスと題して、「崩壊する地域病院への処方箋となるか」について分析された。はじめに「総合内科専門医は単にブランド化しているにすぎないのではないか」と核心を突いた問いを投げかけた。地域で内科を標榜する診療科の全身管理能力についての調査を示した。その中で安定した慢性疾患患者の全身管理ができると答えたのはわずか13%であり、ワーファリン、インスリン、HOTに対応可としたものは7%にすぎなかった。日本は英国の専門医制度に近づいている。分化と統合は自然な流れであり、統合も視点を変えれば分化とも言える(例えば家庭医療は診療場所を主に診療所に限定するという分化)。総合内科専門医が生き残るためには、1)成人の慢性疾患全般を診ることができるadult primary care physician、2)総合内科医を現場で育てるclinician educator、3)診断のエキスパートであるambulist、であるとまとめられた。

その後、弁護士の鈴木利広先生が患者の立場で意見を述べ、黒木茂広先生が自治医大卒業生の30年間の活動をまとめられた。その中で「本質的、多面的、長期的に」「切り取らない医療」「社会的視野を持つ」という3点を強調された。

4名のシンポジストが壇上に上がった総合討論の場で、「地域で様々な疾患に対応している忙しい医師が研修条件を満たさないという理由で総合内科専門医を受験できない現状の改善」を要望したところ、会場から大きな拍手が起こった。現場と制度の乖離を窺わせた。

 全体的な印象として、総合内科専門医が単にブランド化しているだけではいけないという企画者の思いが伝わってきた。日本プライマリ・ケア関連学会の専門医制度確立への動きがこのような企画を生んだようでもあり、その意味で巨大な内科学会に日本プライマリ・ケア関連学会を意識させるようになったと考えると、プライマリ・ケアの3学会が統合したことは大きな意味があったと思える。(山本和利)