札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年4月1日木曜日

プロフェッショナリスムとは


4月1日、医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSの第3弾として勤医協中央病院総合診療部の臺野巧氏・松浦武志氏に3時間のWSをしていただいた。

 まず、松浦氏がご自分の経歴を披露。2001年岐名古屋市立大学卒業。北海道旅行で流氷,全面凍結した摩周湖に感激。勤医協中央病院に就職。その後、上砂川診療所長を経験。地域医療、総合診療、医学教育が専門。
 臺野巧先生。1993年札幌医大卒業。スケート部、POPS研究会、学生会を設立。脳外科医から家庭医に転向。現在、勤医協中央病院の家庭医後期研修プログラムディレクターである。
 10班に分かれて、グループ討議を開始となった。
 WS1.「自己犠牲はどこまで払えばよいか?」「主治医にどこまで診て欲しいか?」
5班は患者チーム、残り5班が主治医チームとなってグループ討議してもらった。患者設定:400床の病院に糖尿病で通院する60歳代の患者。5年前に検診で肺の異常陰影の指摘を受けたが呼吸器内科の医師の外来で経過観察して。5月ゴールデンウィークの初日、40度の発熱、咳、息苦しさが出現。日直の医師に「肺炎です。入院が必要で、人工呼吸器を装着する必要があるかもしれない。主治医の呼吸内科の医師には連絡しておきますね」と言われた。この設定で、あなたが患者なら外来で診ている呼吸器内科の医師にどうしてもらいたいですか?
医師の設定:有名な温泉地に家族旅行中である。日直の医師から「かなりの肺炎です。入院が必要で、人工呼吸器を装着する必要があるかもしれません。今日は私が診ていきますが、明日から呼吸器内科でお願いします。」と言われた。「病院へ行くことで得られる利益と家族の犠牲」について。「あなたが主治医なら、病院に駆けつけますか?」
幾つかの医師の状況と幾つかの患者の状況によって判断がどう変わるか各班で述べてもらった。「熟年離婚を迫られ平謝り後の家族旅行中」の状況で、「当直医の能力が低い」ときの設定では、判断に迷うという意見が多かった。学生が新たに作った設定:「患者が伯父」で「旅行は不倫相手」である場合、熟年離婚は仕方ないが、不倫はばれてはいけないので、駆けつけない、ということであった。全般的に予想以上に駆けつけるという意見が多かった。
ここで松浦先生からミニ・レクチャー1:超義務(一般的な義務を超えた義務)をどこまで果たすべきか?主治医制は超義務になりやすい。では交代勤務制に移行すればよいのか?
WS2.「医療者側と患者側との意識のギャップを埋めるにはどうしたらよいか?」医師自身ができること、病院ができること、患者としてできること、に分けて考えましょう。
医師自身ができること:患者教育をする、社会にアピールする、良好な医師患者関係を構築する、事前に不在を伝えておく、幅広く役立つ勉強会に参加する、できないことは言わない、同僚と仲良くする、家族との関係をよくする、体調管理をしっかり行う、自己犠牲をし過ぎない、不在時の引き継ぎをしっかりしておく、等。
病院ができること:医師数を増やす、複数の医師ができるようにする(2トップ体制にする)、休みやすい体制をつくる、地域の病院との連携を深める(当直に入ってもらう)、勤務表を公表する、副主治医体制にする、幅広く役立つ勉強会をする、休日の診療体制を明確に示す、有給休暇をとってもらうようにする、総合診療医を増やす、医師患者関係がこじれた時に対応できるシステムを創る、患者の不満を聞く場所をつくる、組織として対応する、等。
患者としてできること:医療環境を正しく認識してもらう、医師のプライベートに配慮する、コンビニ受診を避ける、医師に過大な期待をしない、感謝の気持ちを持ってほしい、無茶を言わない、我慢強くあってほしい、等。
ここで松浦先生からミニ・レクチャー2:基本的には主治医制を基盤とし、一部の部署を除き、完全交代制度にしないほうかよい。義務疲労が起こらないように当番体制を確立する。当番医は主治医に遠慮なく連絡できるようにする。主治医は遠慮なく「行けない」と言えるようにする。引き継ぎを確実にするために診療録を改善する。どの専門であってもプライマリケアレベルの診療能力を保有する自己研鑽システムを病院が確立する等、現在の指針を教えていただいた。ただしプロフェッションアリスムに正解はありません、その場で悩みながら解決するしかありません、と強調された。
 この授業で医師になってから必ず遭遇しそうな場面について3時間かけて考えてもらった。学生さん、お疲れ様でした。松浦先生・臺野先生、ありがとうございました。
(山本和利)