札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年1月30日月曜日

手ごわい問題は対話で解決

『手ごわい問題は、対話で解決する』(アダム・カヘン著、HUMAN VALUE、2008年)を読んでみた。藤沼康樹氏が推薦されていたのが読む契機となった。

著者は複雑な問題の解決に向けて共に取り組めるよう、プロセスを企画・促進する第一人者である。南アフリカの民主化移行に多大な貢献をしている。
困難な問題が平和的に解決されることはほとんどない。国際問題であれ、家庭内の問題であれ。本書は、困難な問題を唯一解決する方法を提案している。それは人々が話し合い、互いに耳を傾けることである。

問題には3つの複雑性があるという。
1)物理的な複雑性:その原因と結果が空間的・時間的に離れているため、直接的な経験だけでは解決できない。
2)生成的な複雑性:これまでにない予期できない形で展開する、解決が困難になる。
3)社会的な複雑性:関わる人々が問題に対して異なる捉え方をするため、分裂して行き詰まる。

一般的な話し方は「一方的に伝える(telling, not listening)」だけである。優秀といわれる人たちは、「たった一つの正解が存在する」「自分たちこそが世界がどう動いているかに関して客観的な真実を理解している」と思い込んでいる。これが間違いの元。

南アフリカのモン・フルーでなされた会議。小グループで「何が起きうるか」を話し合う。反論は許されない。「どうして」「その次は」を訊く。第二回目は、最も重要で現実的と思われる4つのシナリオに絞り込んだ。それを検証し、持ち帰り、洗練する。最終的な「フラミンゴの飛行」と呼ばれるシナリオが選ばれた。すべての重要な要素が適切に配置され、社会の全員がゆっくりと共に立ち上がり、政権移行に成功した。このシナリオはシステム的であり、プロセスは創発的かつ参加型であった。

「話さない、聴かない」というパターンは行き詰まりの症状だそうだ。礼儀正しさは現状を維持する(進展のない表面的な話し合いに終わる)。しかし、現状がもはや機能しなくなったとき、私たちは心を開いて率直に話さなければならない。そしてオープンに聴き、内省的に聴く。人は「自分とは離れて存在し、客観的に見たり操作したりすることが出来る」という考えになれてしまっている。そしてできるだけ関わらずに自分自身を守ろうとする。人は個人的な物語を語るときに理解が深まるのである。私たち一人一人が一部となっている「問題状況」が存在するのである(当事者という自覚が大切なのだろう)。聴くということは、話すことをやめることである。

以上のことを実行することは、単純であるが実は容易ではない。

著者からの10の提言を紹介しよう。
1.自分の状態や、自分自身がどう話し、どう聴いているかに注意を向ける。
2.率直に話す。
3.自分は真実について何も知らないということを自覚する。
4.当該システムの関係者たちと関わり合い、話を聴く。
5.システムの中で自分が果たしている役割を振り返る
6.共感をもって聴く。
7.些細なことよりも全体で何が話されているかに耳を傾ける。
8.話すのをやめる。
9.リラックスして、完全にありのままを受け入れる。
10.これらの提言を試みて、何が起こるかに気づく。

世界を変えるには、まず自分自身が変わらなければならない。
本書に書かれていることは、医療面接での心がけと全く同じである。世界中で、相手の話に耳を傾けることができないようだ。たったそれだけのために世界中で悲劇が繰り返されている。まず、自分自身が変わらなければ!(山本和利)