札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年1月13日金曜日

現代イスラムの潮流

『現代イスラムの潮流』(宮田律著、集英社、2001年)を読んでみた。

著者はイスラム地域研究の第一人者。本書は9.11が起こる半年前に執筆されているので、9.11以前のイスラムに対する考え方を知ることができる。

イスラムの最も基本的な宗教義務として五行(5つの行い)がある。それは喜捨、信仰告白、礼拝、ラマダーン、巡礼である。喜捨とは救貧税で、収入の2.5%を貧しい人々のために与えるものだ。信仰告白は、「アッラーの他に神はいない。ムハンマドはその使徒である」と唱える。礼拝は一日五回。ラマダーンは日の出から日の入りまで行う断食。巡礼は一生に一度メッカへ。

別の義務として六信(六つのことを信じる)がある。アッラー、天使、啓典、預言者、最後の審判の日、予定(アッラーが世界の創造主で、その維持者である)。

イスラムの宗派は大きく2つ。大多数はスンナ派、少数派はシーア派(イランでは大多数)。一般に、スンナ派が権力や上級ポストに就き、シーア派は底辺に追いやられている。その圧されたシーア派がクルド人を抑圧するという階層構図ができあがっている。

イスラムと異教徒との最大の紛争として「パレスチナ問題」が語られる。発端は英国のユダヤ人とパレスチナ人の双方に都合のよい約束にあった。その結果、双方が譲らず4度の中東戦争を経て、イスラエルの成立とパレスチナ難民の発生という状況に至っている。

アフガニスタンのタリバン支配に至る経緯も発端は米国がソ連への盾として利用したことが現在の悲惨な状況を招いている(タリバンもアルカイダも米国CIAが武器援助をして軍事指導をしているのだ)。

本書の最終章は、「イスラムとの共存、共生を考える」となっている。本書を通じて、イスラムを少しでも理解し、融和を図ろうとされたものであるが、この半年後に9.11が起こり、米国では、イスラムに対する偏見・差別が増幅しており、何とも皮肉な結果となっている。(山本和利)