札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年1月12日木曜日

北緯10度線

『北緯10度線 キリスト教とイスラム教の「断層」』(イライザ・グリズウォルド著、白水社、2011年)を読んでみた。

著者は宗教家の娘であり、米国のジャーナリストで詩人である。宗教、地域紛争、人権をテーマに世界各地を取材。本書でJ・アンソニー・ルーカス賞を受賞。詩作でローマ賞も受賞している才女である。

北緯10度線は、赤道から1,100キロあまり北をぐるりと水平に取り巻いている。この北緯10度線に沿って、スーダンおよびアフリカ内陸部の大半で2つの世界が衝突している。アラブの影響を受ける北部とキリスト教・土着の宗教を信じる南部。アラブ系の北部人は、色の黒い南部人を見下してきた。この分断には西欧の植民地支配が端緒となっている。過去100年にわたって、非ムスリム少数派の大半は、先祖代々のムスリムによる抑圧から解放を願ってキリスト教(ペンテコステ派で、精霊との交わり等、霊的なものを基盤としている。あなたの敵に打ち勝てと説教する牧師が多い)に改宗した。その抗争に石油資源の管理権を巡る争いが紛争に拍車をかける。

今日の典型的なプロテスタントは、アフリカ女性だそうだ。この地域では国がほとんど行政サービスを行っていない。そこで宗教が集団的安全保障の維持手段となる。さらに一方の利益は他方の損失になる。その追求のために協同体員に命を惜しまい気持ちにさせる(殉教と聖戦)。宗教だけが若者に目的意識を与えてくれる。

各論の第一部はアフリカ。まず、ナイジェリアの様子が語られる。この国には仕事のない若者が6,000万人いる。教育はあるがやることがない。アフリカは気候変動の影響を受けやすい。害虫の媒介による病気や砂漠化の拡大、突然の洪水が拍車をかける。話はスーダンに続く。闘争の根源には大英帝国の存在がある。宗教を政治的支配の仮面に利用した。ソマリアでは、著者が会いたいと思っていた人々は国外逃亡するか死亡している。その元凶は米国(軍閥に資金提供するCIAプログラム)であるという。ここでは治安が酷くて難民キャンプから国際援助団体が逃げ出している(2008年、援助団体職員35名が殺害されている)。国際社会の注目を集めるために自爆テロも横行している。

第二部はアジア。インドネシア、マレーシア、フィリピンの現状が語られる。フィリピンにおける現在の紛争は、20世紀初頭の米国の介入によるところが大きい(移住の強制や法律の施行)。

異なる宗教は共存できないのか。エピローグで、共存を目指す宗教者が取り上げられている。しかしながら、この愚かしい南北対立を解消する策が見えない。これは日本の地域医療崩壊の比ではない。(山本和利)