札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年1月25日水曜日

ディアスポラ

『ディアスポラ』(勝谷誠彦著、文藝春秋、2011年)を読んでみた。

ディアスポラとは、(植物の種などの)「撒き散らされたもの」という意味のギリシャ語に由来する言葉で、元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族の集団ないしコミュニティ、またはそのように離散すること自体を指す。難民とディアスポラの違いは、前者が元の居住地に帰還する可能性を含んでいるのに対し、後者は離散先での永住と定着を示唆している点にある。最近では、混乱によって国外に亡命したツチ族ルワンダ人やソマリアを逃れたソマリ人集団などについても用いられることがある。

本作品は3.11が起きる10年前の2001年に書かれた原発事故を扱った小説である。
冒頭はチベットの難民キャンプ。「事故」のあと、日本人は世界中に散らばった模様だ。事故後の日本の具体的な様子は語られない。誰も帰られないというそのことが、被災の重大さを行間から伝えている。

難民になるということはどういうことなのか。難民が自主帰国に供えてお金を稼ごうとすると、現地では不法就労ということになる。異国の地での高山病にも襲われる。そんな状況下で母親が不審な死を遂げる。そのときの少女の対応を本文で、「悲しみに出会った時に、他人に重荷をあたえぬためにそれを自分の中に受容することなど、あの国にいた時の少女にあり得たことだろうか。」と綴っている。

「事故」は万人の上にふりかかったのだ。まさに「福島」がそうであったように。

本書が予言したように2011.3.11に福島県民はディアスポラとなった。本書との違いは、避難した地が国内ということである。「安全神話」に踊らされた日本人へのつけはあまりにも大きい。

TV番組の被災地報道から推察すると、国レベルの対応は被災現場からたくさんの批判が出ている。一方、被災地では現場のニードに合わせて行動をするリーダーがあちこちに出現しているようだ。現場こそがリーダーを育む、ということか。(山本和利)