札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年1月26日木曜日

新たな帝国アメリカ

『新「帝国」アメリカを解剖する』(佐伯啓思著、筑摩書房、2003年)を読んでみた。

9.11後の世界の仕組みを考察している。9.11のとらえ方として、これまで「文明」と「野蛮」の衝突というもの(米国のブッシュ大統領)と「文明」と「文明」の衝突(ハンチントン)という二つあるという。

著者は、まず「文明」と「文化」の違いを考察する。「文明」は、多かれ少なかれ普遍性と抽象性、そして変化といった要素を含んでいる。一方、「文化」とは相対的ではあるものの、特定の国家や地域といった場所性と歴史性に根ざした独自のものである。9.11について、「文明」と「文化」の衝突であるという新たな視点を提供している。9.11の根源には、イスラムから見ると「文明」という名の下に世界支配を目指す驕れる国家米国があり、米国にとってイスラムは、容易に原理化する排他的な独善社会ということになる。

9.11以後、時代や世界がピカソの絵のように混沌としている。そんな中でフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論もハンチントンの「文明の衝突」論も色あせてきている。

このように既存の理論を論破しながら、帝国化するアメリカ、自由と民主主義の帝国、自由と民主主義の帝国、「アメリカニズム」の変容、と章は続く。その中では、「グローバリズム」というアメリカの戦略が論じられる。アメリカ的価値の普遍性としての世界の「マクドナルド化」とは、「食べ方」という文化の変更を迫る(生産、サービス、消費の形の変更)。これをイスラム側は文化への侵略と捉えることになる。

本書は米国を問題の中心に据えて世界の潮流を論じている。本書の後半を読むと、米国(欧州を脱出したピーリタン)と欧州諸国とを十把一絡げに西洋と括ることができないということが理解できる。現在、米国は「自由」「民主主義」「人権」といった理想を失い、ニヒリズムの陥っているという。

著者は、結論として様々なレベルから成る人々の繋がりである「社会共同体」を重視する立場をとる。人は多様な「共同体」に属することで、はじめて他人から評価され、同一性を得、道徳的に方向づけられ、追求すべき価値を見いだす。そうすることではじめて「文明」と「文化」が融合するのだと説く。

人を自分の方に引き寄せて支配するのではなく、相手の価値観を認めて共に生きていくことが大事なのだ。(山本和利)