札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年8月31日水曜日

貧困学

8月31日、PCLSで「貧困学」という講義を行った。

「差別」により住民の「生活が困窮」し、都市へ出るようになる。しなしながら簡単には職に就けないため、スラムに暮らすことになる。スラムには同じ身分や職業の者が集まる傾向があり、宗教や民族、出身地別に成り立つ。

スラムが巨大化すると、スラムの中に店や会社ができるし、住民の間に雇用関係が生まれ、家や土地の貸し借りが行われるになる。そこでの人々の暮らしは、清潔とは言い難い。

スラムの食事は、階級ごとに食べ物が異なるし、火や油をつかった料理が多い。「貧困フード」と呼ばれるフライドチキンが主体である。ビタミン剤などで補っているが早死にしやすい肥満が蔓延している。

スラムの病気として、マラリア、赤痢、HIV等が挙げられる。
5歳未満の乳児死亡率(1,000人あたり)【世界子供白書 UNICEF 2008】は、日本が4人に対して、アフガニスタンは257人、シエラレオネは270人である。
28日以内の乳児死亡率(1,000人あたり)は、日本が2人に対して、アフガニスタンは60人、シエラレオネは56人、妊婦年間死亡率(10万人あたり)は、日本が6人に対して、アフガニスタン:1,000人、シエラレオネ:2,100人である。

子供たちの将来は楽観できない。薬物による中毒死、酩酊時の事故、感染死、栄養失調等が待ち受けている。

日本の貧困状況はどうであろうか(あまみやかりん、毎日新聞、2011.7.27)。
貧困とは年間所得<112万円(2009年)と定義され、16.0% を占める。それが一人親世帯になると、50.8%となる。非正社員化、働き盛りの親世代の低所得化・不安定化などがみられる。

『貧困の克服』という書物をアマルティア・セン(ノーベル経済学賞)が著している(集英社新書、2002年)。その中で貧困を克服したアジアの特色は、1)基礎教育の重視、2)経済的エンタイトルメントの普及、3)国家経済と市場経済の巧妙な組み合わせ、と述べている。新古典派経済学は、自己の利益の最大化を目指す人間を前提とするが、それは合理的な愚か者であり、現実には「センのリベラル・パラドクス」が生じると述べている。すなわち、全員一致の原理と個人の自由は相容れないというのである。センは「他人の権利を考慮して他人のために行動する」ことを重視している(これをコミットメントという)。

「剥奪から身を守る具体的能力」をセンはエンタイトルメントと呼ぶ。貧困から脱却するためにはこの能力を身につける「エンタイトルメントアプローチ」の重要性を強調している。飢餓の原因は、天災よりの腐敗した権力によるエンタイトルメントの剥奪であり、エンタイトルメントを住民に身につけさせ、かつ女性の権利の視点を開発に盛り込むことが大切であるとしている。

「贈与を受けたと思いなす」力。
「価値あるものをもらったと思ったら、返礼をしなければならない」ということがすべての人間社会の根幹である。「これに価値がある」と思う人が出現したときにはじめて価値もまた存在し始めるのであって、それに気付かない人も多い。

我々医師は自分の力だけで医師免許を勝ち取ったのではない。家族・友人・国民からの支援があってはじめて現在の今がある。社会が必要とすることに医師集団として応えなければならない。(山本和利)