札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年8月25日木曜日

契約

『契約』(ラーシュ・ケプレル著、早川書房、2011年)を読んでみた。

スティーグ・ラーソンの『ミレニアム3部作』が世界中でベストセラーになり、スウェーデンのミステリに注目が集まっている。本書はスウェーデンの覆面作家の作品として注目を浴びた『催眠』に次ぐ作品。著者の詳細については既にアレクサンデル・アンドリル&アレクサンドラ・コエーリョ・アンドリル夫妻と判明。ともに純文学作家であるという。

夫婦作家としては警察小説『マルティン・ベック』シリーズのマイ・シューヴァルとペール・ヴァールーが有名である。(第1作「ロゼアンナ」(1965年)と第5作「消えた消防車」がお勧め。)

『催眠』も『契約』もともに上下2巻で800ページを越える大作である。『催眠』は映画化も決定している。『契約』はスウェーデン国家警察のヨーナ・リンナ警部を主人公にした8部作として構成されたシリーズの第2作目である。この後に続くシリーズのタイトルは多分デック・フランシス・シリーズのように漢字2文字になると予想される。

平和団体の会長を務める24歳の女性と武器輸出を推進するスウェーデン軍需産業との凌ぎ合いを中心に話が進んでゆく。ジェットコースターのような話の展開がこの作家の特徴である。

良質なミステリや犯罪小説からは、世界の抱える問題が見えてくる。世界の通常兵器輸出の上位9カ国は、米国、ロシア、ドイツ、フランス、英国、オランダ、イタリア、スウェーデン、中国である。表の顔はアフリカや中東の人権擁護を謳いながら、裏では紛争地域の殺戮に手を貸して自国の繁栄だけを願うエゴが見え隠れする。

やや殺人場面が多すぎる傾向にあるが、夏休み等で時間に余裕のあるミステリーファンにお勧めである。(山本和利)