札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年8月5日金曜日

エイズを弄ぶ人々

『エイズを弄ぶ人々』(セス・C・カリッチマン著、化学同人、2011年)を読んでみた。

著者は心理学者で、社会心理学教授である。また南アフリカ「南東HIV/エイズ研究・評価プロジェクト」のリーダーでもある。本の書き出しが、「私はいかなる製薬会社からも資金援助を受けていない」で始まっている。本書の印税は、アフリカのHIV/エイズと共に生きる人々にために使われているそうだ。

2009年の推計で、南アフリカの成人のHIV感染率は17.8%であり、大人の5-6人に一人が感染者である。日本の新たなHIV感染者は1,021件で、増加傾向にある。

「HIVはエイズの原因である」ことは明白なのに、それを否定したエイズ否認主義が南アフリカに深刻な影響をもたらしたことを告発している。何とムゲキ元大統領もその一人である。

エイズ否認主義者で大きな影響を与えた者として、エイズ感染者であるにもかかわらずHIVがエイズの原因であることを否定し、HIV検査を受けるのをやめさせようとしたクリスティーヌ・マジョーレが挙がる(娘をエイズで亡くしているのに否認し続けた。そして自分自身も52歳でエイズ関連肺炎が原因で死亡している)。否認主義の大きな特徴のひとつは、他の人の視点で問題を見ようとせず、なんとしてでも自分の立場を守ろうとする、強い不信感がある、疑り深い、現実を歪めて認識している、ということである。インターネットが否認主義の台頭に重要な役割を果たしてきた。否認主義はエイズ/HIVの診断と治療への不信を強める。

先駆的なウイルス学者ピーター・デューズバーグは最初の結論を180度方向転換し、レトロウイルスは100%無害であると主張した。麻薬がエイズの原因であると主張している。科学に背を向けた態度で他の研究者に嫌われており、助成金獲得にも失敗している。

否認主義者の論法をまとめると次のようになる。
1.HIVは存在するが、HIV検査は無意味である。
2.HIVはエイズの原因ではない。
3.HIVはエイズ発症のために必要だが、それだけでは十分でない。
4.HIVの治療薬は毒物である。
5.HIVは男女間の性行為では感染しない。

「様々なことが先進諸国に比べて遅れているから正しい知識が届かない」という認識は誤解であり、米国の学者等が歪んだ情報を発信しているからであった。それにインターネットが絡んでいる。最近の日本においても、誤ったインターネット情報を根拠に医療機関を訪れる患者が少なくない。医療従事者側から早急な対応策を考える必要があろう。(山本和利)