札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年8月7日日曜日

寺澤秀一氏を招いて:江別市立病院教育カンファレンス前編

 8月5/6日の両日、江別市立病院で開催された
福井大学の寺澤秀一先生を招いての教育カンファレンスに参加。
まずは寺澤先生の地域医療再生のレクチャーから。

 冒頭で寺澤先生は福井においてユーモアについて話された。
先生はスタッフ・研修医と食事会を開きユーモア力(りょく)
とコミュニケーション力(りょく)を評価しておられるそうです。
さらに臨床に於けるプレゼンテーションにもユーモアのセンス
を求めると。
なぜならプレゼンテーションはプロのコミュニケーションであり、
楽しいプレゼンテーションカが、将来の仲間づくりに重要だと
考えているとのことでした。

 続いて震災後の活動の話へ。
 寺澤先生は福井県が原発銀座であることから従来から原子力
災害に強い救急医を育てていました。今その若手救急医が
福島原発の現場で寺澤先生とともに率先して働いています。
なんという慧眼。

そしていよいよ本題
日本の臨床現場でGeneralistをいかに増やすか。
1)日本の医学教育の構造的問題。
 clinician educator(臨床の教育者)の重要性。現在の大学には
 education Factorが無い。clinician educatorの支援をして
 育てる仕組みが必要。

2)救急医と総合内科・家庭医の育成
 患者は救急医療から地域へ戻る、しかし地域のケアが貧弱だと
 救急にすぐ戻ってしまう悪循環が繰り返される。地域の医療の
 層を厚くし、支える為に実力のある総合内科医、家庭医を
 育てる事が肝要。
 医学生にGeneralistの役割について根気強く教える事が地域を
 変える。

3)Generalistの育て方
 福井大学病院での挑戦
 救急+総合医コースで 68人/8〜9年間の入局者という実績。
 ・横断的診療医師団の形成〜従来の単独主治医制が医師を
  疲弊させる。徐々にチーム主治医制に変えるべき。指導医は
  指導に専念できる。
 ・理想は総合内科100床(総合内科1チームあたり20床×5チーム)
  +各10床程度の専門医チーム。全体で100〜200床規模の病院。
 ・各専門内科subspecialityの医師は後期研修の一部を総合医
  として一定期間働く。総合への共感力の高い医師の育成。

4)地域医療をやる医師は地域の医療施設で育てる
 寺沢先生は週1回 自ら運転しclinician educatorとして家庭医の
 診療所を支援している。
 現場で教育マインドがあり、臨床を頑張る医師を支援しながら
 若手を粘り強く育てる。そうすると数年に一度後継者候補と
 なる人材が出てくる。

 カリスマ的な情熱家の医師が定着した地域では個としては成功
 するがかならず後継問題に悩む。
 後継者は常に偉大な先駆者と競わされてしまう。結局後継者は
 疲弊してしまうか、そもそもハードルが高くて近寄らない。

5)人材の集め方
 医学生は救急当直に魅かれて集まる。見学者にピカーの指導医と
 看護師をつける。医学生に充実した研修体制をみせる。
 病院のホームページに救急と総合力養成重視をうたう。

 福井大学にも多くの病院の責任者が医師派遣を要請してくる。
 多くは不足する医師の埋め合わせとしてだが、中にはその病院が
 自前で医師を育成する為の教育スタッフとして招聘したいという
 所もある。そういう熱意のある病院にスタッフ派遣を要請して
 きた時は応援したくなる。

6)人材を育てる
・人格を重んじない臨床指導医のABCD
  A、アホ
  B、バカ
  C、カス
  D、ドケ
  (体育会系で虐げられる事に慣れた人しか耐えられない。)

・人格を重んじる臨床指導医のABCD
  A、愛情
  B、勉強
  C、叱り上手
  D、度量
  (より広いタイプの人材が受け入れられる。)

 今は教え上手な後者の臨床指導医の方がニーズが高い。
 北米ERに掲げた標語
「Remind yourself the Lion while Hunting doesn‘t roar」
 (ライオンは獲物を得る時には吠えない
   =成果を得たい時に脅かすのは得策ではない。)

臨床カンファレンスの極意
 吊るし上げカンファランスは禁忌。
 Whyの質問をしない=後出しジャンケンで
 「何故あの時~しなかった!」は
 こういう姿勢では人は萎縮し、経験を表に出さなくなる。
 教育現場で育てるべき人材をつぶさない事が大切。
 様々なタイプの人材を育て、マンパワーを充実した
 後で、現れたリーダー候補を徹底的に育てる。

レクチャーに引き続き、江別市立病院からの症例検討。
 患者情報を含むため症例詳細は割愛。
 若手医師がピットフォールに陥りやすい過程をライブ感の
 あるプレゼンテーションにまとめていました。

  症例を踏まえて寺澤先生からACSと誤認しやすい心電図変化
 を来す頭蓋内疾患についてのPearlsが即座に披露され、複数の
 参加者の活発な意見とともに正Clinical Jazzが展開されました。

 プレゼンテーションの表示を見ると聴衆の興味を引きながら
担当医の考えている鑑別疾患が浮かぶまとめ方をしています。
またホワイトボードに板書する研修医が相当に慣れているのが
分かります。これは日常の病院内カンファランスで教育的症例検討
が相当行われている事を示していると感じました。

8月6日の後編に続きます。
(助教 稲熊)