札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年8月7日日曜日

寺澤秀一氏を招いて:江別市立病院教育カンファレンス後編


8月6日は8時から江別市立病院の症例検討
 中堅医師が初期対応で診断の困難な患者さんの
 マネジメントについて披露。
 主治医は救急搬入が続くなかでベテラン外科医に
 連携を取り、最終的に手術となり患者さんは回復した。
 参加者とのClinical Jazzを繰り広げながら、寺澤先生
 からの臨床判断におけるポイントでのpearls。

・救急では緊急性の高い疾患から除外すべきであるが、
 迅速に判断するタイミングと時間を無駄にしない検査
 の組み立て方について。
・救急においてはより情報量の多い検査でより Critical
 又はより多くの疾患の鑑別できる検査を優先すべき。
・不要な検査を省く合理的判断を伝える患者説明の仕方。
・ 高齢者の急性腹症の鑑別は血管性から考える。
・ free air探しのXPの見方
・ グラム染色の有効性
・ 医療職のチームワーク作りが時として医師と患者を救う。
  普段から技師さんと仲良くなる。


寺澤先生レクチャー
病歴聴取の腕を磨く
1)高令者の生まれて初めての~は要注意。
 Worst headache
 AAAの誤診で最も多いのは尿管結石
2)発症時に何をしていたか(onset)に拘る
 very Sudden Onsetは患者がクリアに説明できる。
 高齢者の排便時に発症した時は要注意。
3)症状の移りかわりに拘る
 女性は月経に拘る
 ー月経周期の間の婦人科の腹症の筆頭鑑別疾患は異なる
4)常に既往歴に拘る
5)常に薬剤に拘る
 薬剤相互作用で発症する例が以外に多い。
例え全ての薬を知っていても、薬剤の関与を
 疑わなければ気付かない。
 特に注意するのはワーファリンと他剤の組み合わせ。

6)様々な患者への診療姿勢
 軽症そうに見える患者も馬鹿にせず傾聴する。
 (少なくとも姿勢を見せる)。
 そうした事が患者からの情報を豊かにし診療を助ける。

 患者と家族の心理背景に配慮する。
 例え患者の死が避けられない場合でも残される家族の
 心情に思いを寄せ、ケアに取り組む姿勢が大切。
「患者を愛している家族もまたもう一人の患者である」

 患者の病気の向こう側を診る医師を育てる。
 救急に強い家庭医、家庭医の心を持った救急医。

寺沢流ミスした時の 5箇条
・正直に認める、言い訳をしない。
・同じミスをしないための対策を立て報告する。
・ミスを受け入れ、カバーした上司、同僚に感謝する。
・自分を責めすぎない
・将来ミスをした後輩にどう接したら良いかを
 この機会に考えておく

ERで人を育てる。
・ERで起きた全てのトラブルをカンファレンスに出す。
・決して当事者を責めない。若い人につまずきは必要。
・失敗したときこそ学びの宝庫それを進歩や成長の糧とする。
・失敗した若手への語りかけ方(PNP)。
・若い人の盾となるリーダーシップ。
・若手にトラブルに取り組む自分の背中を見せる。

確認事項
ユーモアのカ
・感情をぶつけるのを教育とは言わない。By WiIIis
・見返りを期待せずに与える、教える事。
・性急を期待しない。我慢強い教育姿勢。
・見返りを期待せずに行った教育こそ最も見返りが
 大きい。
・苦節だけが人を進歩させる。

正午に寺澤先生のレクチャーが終了。
 寺澤先生の講義を聴くのは今回で4回目ですが、
エネルギッシュでpearlsに満ちた講演は若手から
ベテランまで聴衆を飽きさせない珠玉の時間でした。
 
 寺澤先生は一流の医師・教育者であるとともに、
コミュニケーションの達人であると感じます。
寺澤先生は講演では常に異なる4パターンの
スライドを用意しておられるとのこと。
常に会場に気を配り、その日の聴衆の反応を見て、
スライドを組み替えて使うそうです。

先生はユーモアの力を繰り返し強調されています。
自分が先生のレクチャーから汲み取った事は
・ ユーモアを大切にする事で教育に必要な
 No Blame No shameの雰囲気を醸し出す。
・ ユーモアに心を配る事で心に余裕が生まれ、
 チームに優しさが生まれる。
・ ユーモアが心のハードルを下げ、皆に経験/教育を
 Share(分かち合う)姿勢が生まれる。
・叱り方にもユーモアを。
  若手を萎縮させない、伸び代をつぶさない。
・ユーモアを大切にする事で常にSomething Newを
 見つける感性が養われる。
・ 医療現場は過酷な感情労働の場である、ユーモアにより
 職場の対人ストレスを和らげる事がミス事故トラブルを
 減らす。

 今のように笑顔とユーモアの絶えない先生ですが、
そこに至るまでにとても長い道のりを時には一人で、
時には周囲の人に支えられながら歩んで来たとの事。
そのような経験の中から生まれた寺澤マインドとも
言うべき熱い思いは聴衆にしっかり伝わったと思います。

 本日の症例検討について
 はっきりしない病態が経過をへて判明する事は臨床では
時折見られるが、医師はその途中の苦しい胸の内を含めて説明
しました。

 他科をひき込んで対処する様子を彼は
「責任を皆で分ちあうため、他科医に頭を下げてお願いした。」
と表現しましたが、自分が思うに真に重要な事は、彼が
「(患者さんの命を最優先に考え)頭を下げた」
事であり、医師としてひたむきな診療姿勢が患者を救った事
を讃えたいと思います。
北海道には頼もしい若手総合医が育っています。

(助教 稲熊)