札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2011年8月28日日曜日

チェルノブイリ・ハート

『チェルノブイリ・ハート』(マリアン・デレオ監督:米国 2003年)という映画を観た。 菅首相も「重い映画だ」と感想を述べていた。


本作品は2003年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞している。マリアン・デレオ監督は、これまでにベトナム、グアレマラ、イラク等の紛争地での取材経験が豊富で、多くのドキュメンタリー作品を発表し、エミー賞をはじめとして数多くの受賞経験がある。

本作品は45分の『チェルノブイリ・ハート』と15分の『ホワイト・ホース』の2作をつなげたものである。その中に3月11日の福島原発事故への監督の日本へのメッセージを付け加え、さらにトルコ人詩人ネジム・ヒクメックの『生きることについて』を追加して字幕で流している。

周知のごとく1986年4月26日、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所4号炉が爆発事故を起こし、放射性降下物はウクライナ、ベラルーシ、ロシアを汚染した。

チェルノブイリ・ハートとは、“穴のあいた心臓”ということでASD,VSDを指しているようだ。胎児期の被爆で先天性心疾患が増えるということか。それよりも衝撃的なのは、現在でも、ベラルーシでの新生児の85%が何らかの障害を持っているという情報である。ホット・ゾーンの村に住み続ける住民、放射線治療の現場、小児病棟、乳児院の実態に迫る。水頭症や精神発達遅延の子供たちの映像は衝撃的で、思わず眼を背けたくなる。

2002年、ベラルーシ共和国では、原発から半径30キロ以内の居住は禁止されている。さらに北東350キロ以内に、局所的な高濃度汚染地域“ホット・ゾーン”が約100ヶ所も点在している。ホット・ゾーンでの農業や畜産業は、全面的に禁止されている。福島原発事故では、30km圏内を立ち入り禁止としているようだが、チェルノブイリのその後をみるとそんな甘い規制で大丈夫か心配になる。

『ホワイト・ホース』は、事故から20年が経った2006年、事故があってから初めて故郷を訪れた1人の青年が、廃墟となったアパートへ向かう映像で始まる。爆心から3キロの強制退去地域は、1986年の状況のままで、青年の実家の壁には1986年のカレンダーとホワイト・ホースの絵がそのまま残っている。多くの近親者がガンで死んだという。その1年後、この青年は27歳の生涯を閉じたという字幕が流れ映画は終わる。(山本和利)