札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2011年7月29日金曜日

錯覚の科学

『錯覚の科学』(クリストファー・チャブス、ダニエル・シモンズ著、文藝春秋、2011年)を読んでみた。

著者らは心理学者で、本書に登場する「見えないゴリラ」の実験は人間の認知メカニズムの陥穽を鋭くえぐり出し、心理学における重要論文の一つになっている。

私たちに影響を与える日常的な錯覚は、6つあるそうだ。注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性にまつわる錯覚である。

ここで有名な実験を紹介しよう。
白黒2つのバスケットチーム試合をする短いフィルムを作成。実験者は参加者に白シャツ選手のパスは無視して、黒シャツ選手のパスの回数を数えるように依頼した。ビデオの途中にゴリラの着ぐるみを着た女子学生が登場し、選手の間に入り込み、カメラに向かって胸を叩き、そのまま立ち去った。その間9秒。半数の参加者がゴリラに気づいていなかった。何回場所を変えてやっても同じ結果であった。「人は予期しないものに気づきにくい」。
”invisible Gorilla” でYouTube検索をするとこのビデオを見ることが出来る。「エェ、本当にこんなゆっくりとはっきりとしたゴリラが見えないの?」というのが正直か感想である。

記憶も捏造される。話している相手が一瞬で入れ替わっても気づかない。そんな実験が2つ紹介されている。

自分自身の実力ほど客観視出来ないものはない。未熟なものほど自信過剰である。自信のある態度に人はだまされやすい。

知識の錯覚。科学者は自分の知識を過大評価する。人間の遺伝子数の予測を大きく外している。

脳トレをしても脳の衰えは予防できない。数独やクロスワードなどのそれ特有の問題を解く能力が鍛えられるだけである。それよりも有効なことは、毎週3日に1回、45分間の歩行をすることであり、それにより前頭葉の脊髄灰白質の減少が止まるという。

原因の錯覚につながる3つの傾向がある。
1. 偶然のものにパターンを見いだし、そのパターンで将来を予測すること。
2. 2つのものの相関関係を、因果関係と思い込むこと。
3. 前後して起こったことに、因果関係があると思い込むこと。

言及してきた6つのどの錯覚にも共通していることは、自分自身の能力や可能性を過大評価していることである。また、直感を強調する書物が多いようだが、多くの場合、直感は現代社会の問題を解決できない、と著者らは結論している。

日常的な錯覚を意識して世の中を見渡すと、前ほどに自信がもてなくなる。しかし、自分自身の心の働きについて新たな見方ができ、他人の突飛な行動も新たな目で眺められるようになるだろう。人間とは何とだまされやすい者か!(山本和利)