札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年6月2日木曜日

1年生 医学史 講義 その4

本日は医学史の講義を行った。
もうすっかり学生による授業運営が定着してきたため、教員はゆっくりと彼らの発表を見ていればよくなった。

本日は、感染症との戦い 「ジェンナー」と「ペニシリン」である。

ギリシャ時代から医学史を振り返ってきたが、そろそろ、現代医療にも多大な影響を及ぼした人物がテーマとなってきており、学生諸君も一度は名前を聞いたことがある人物であろう。


ジェンナーは天然痘ワクチンを発明したことで有名だが、
そもそも天然痘とはどういう病気なのだろうか?
そういう疑問に対する説明から発表が始まった。

天然痘とは、特異的な治療方法がないウイルス疾患で、
紀元前1500年くらいのエジプトの王ラムセス5世のミイラからもその痕跡が発見されているそうだ。
その致死率は30-40%にも及び、かつて人類が最も恐れる病であった。

古くはコロンブスの時代にアメリカ大陸に持ち込まれ、免疫のないアメリカインディアンの一部族が全滅するほどの猛威をふるい、日本には、奈良時代に渡来人によって持ち込まれ、そのあまりの死者の多さに浄土信仰が発達し、奈良の大仏の建立のきっかけとなったそうだ。また、北海道にも本州人から持ち込まれ、アイヌ民族は天然痘にずいぶんと苦しめられたそうだ。

古くから天然痘の予防に「人痘接種」という、感染者の水泡の中身などを非感染者に摂取して、軽く天然痘にかからせ、本格的な天然痘になるのを防ぐという方法が取られていた。効果はそれなりにあったようだが、運悪く、本格的な天然痘を発病し、そのまま死亡する人もたくさんいたようである。


そんな中、ジェンナーの生まれたイギリスバークレー地方では「牛の乳搾りをする女性は天然痘にかからない」という言い伝えがあり、ジェンナーはこれを「牛の天然痘である『牛痘』にかかると、天然痘を発病しないのではないか?」と考え、牛痘に感染した牛の水泡から摂取した液体を健康な8歳の子どもに接種し、その後に、実際の天然痘患者から摂取した液体を接種して経過観察をしたところ、この子どもは、天然痘を発症しなかった!

これを契機に天然痘の予防としての牛痘接種が全世界に広まっていった。

このバークレー地方の言い伝えから、多くの人が何となく「牛痘にかかれば天然痘にはかからない」ということには「気づいていた」のであるが、ジェンナーはそれを「実証してみせた」ことに彼の凄さがある。これは若き日のジェンナーが師事した外科医の教えであった。


以上の発表に対し、ファシリテートをする班からは、いつものファシリテーションと違い、講義室の学生に対し、ある疑問が投げかけられた。

「結果的に人体実験をしたことになるジェンナーは、ほんとうに素晴らしい人なんだろうか? このようなことは現代でも通用するのだろうか?」と。

教室からは様々な意見が出た。やはりおかしいという意見と、結果的に良かったのなら認められる。その結果について自分で全責任を負ってのことであれば許される。などなど。

う~ん、これは正直難しい。現在の臨床試験にも通じるものであり、当時は「同意書」なるものなどなかっただろうし、、、、意見が割れるのは当然だろう。

ただ、教室の雰囲気はいつもと違い、活気に満ちていた(ちょっと言いすぎか・・・?)。手を挙げる学生がちらほらいるではないか!!

あるテーマに絞って議論を投げかけるやり方は、そのテーマが適切であれば、会場を盛り上げる方法としては有効だろう。問題は、他人の発表の時間内にその適切なテーマを見つけられるかどうかである。

これは、ファシリテーションの経験を積まないとなかなか難しいし、口で教えられるものでもない。しかし本日の学生はそれをやってのけた!!。しかも、適度に笑いを誘い、きちんと時間通りにセッションを終了した。
素晴らしい!!

毎回授業をやるごとに学生のプレゼンテーション・ファシリテーションの技術が向上していくのを肌で感じる。彼らは、確実に他の班の発表・司会から毎回すこしずつ知識・技術を吸収して成長していっているのだ。

我々教員の仕事は、知識を大上段から彼らにバラまいて植え付けることではなく、知識・技術を獲得する方法を教えることなのだ。最近改めてそう思う。


2つ目の班は「ペニシリン」であった。

冒頭、「必要は発明の母かもしれないが、偶然は発明の父なんだ」という言葉を紹介し、ペニシリンが「偶然」によって発見されたということへの伏線を引いた。そのほか、ポストイットや瞬間接着剤・電子レンジなど、偶然によって開発された商品をいくつか紹介していた。


フレミングは自身の夏休みにの間にうっかりそのままにしてしまった、ブドウ球菌の培養シャーレに青カビが生えているのを見て、それを「失敗」と取らず、よくよく観察して、その青カビのコロニーの周りにブドウ球菌のコロニーが全く生えていないことに気づき、「青カビがブドウ球菌を殺す物質を作っているはずだ」と考え、この青カビの名前からとったペニシリンという物質を発見した。

しかし、細菌学者であったフレミングはこのペニシリンを大量に分離する技術までは開発できなかったようだ。

その10数年後、フローリーらにより青カビを大量に分離培養し、ペニシリンの大量生産に成功し、彼らは1945年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

当時、第2次世界太戦では戦争による死傷者よりも、簡単なカスリ傷から破傷風となり死んでいく兵士のほうが圧倒的に多かったのである。
それがこのペニシリンにより感染症による死亡が激減し、人類は感染症の恐怖から解放されたのであった。

しかし、撲滅されたと思われた感染症であるが、抗菌薬の大量使用や、不適切な使用により、耐性菌が出現するようにあった。ペニシリン耐性肺炎球菌の出現に対しメチシリンの開発。それに対抗するようにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現。それに対抗するバンコマイシンの開発。それに対抗するバンコマイシン耐性腸球菌の出現。と最近と抗菌薬開発のイタチごっこは永遠につづくのである。


また、現代の新薬開発でも、基本はフレミングが開発した、自然界の生物で作られる天然の抗菌物質を抽出し、様々な化学修飾を加えて製品にしていく方法が取られていることが紹介された。
身近なところではメバロチンも同様の方法で開発された薬であることが紹介されていた。この薬は全正解で4000万人が服用しており、年間売上は5800億円にものぼる。産業としての製薬の一面も強調されていた。

最後に、
偶然を偶然で終わらせない事実をしっかりと観察する力の重要性を強調して発表が終了した。


この班の発表には、クイズを入れたり、正解者に(何故か)うまい棒を配ったり、非常に面白い喩えを使って説明したり(5800億円を100万円毎日使っても1500年かかるなど)、スライドにキャラクターを入れたりと、発表の随所に分かりやすくする工夫が施されていた。内容はかなり専門的な部分もあり、ともすると眠たくなりそうなものであったが、そうした工夫で、非常に締まった発表になっていた。


まだまだこの医学史の授業は続くが、どこまで学生の技術が向上するか?
毎回非常に楽しみだ!!

                              (助教 松浦武志)